野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
旅立ったハマの牛若丸・藤田一也。
生え抜き同士のトレードは成功する?
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/07/10 10:30
白井一幸・内野守備走塁コーチが「今まで見てきた中でもトップレベル」と評した藤田の守備。バッティングも規定打席未到達ながら2010年、2011年と打率3割を超え、ファンの期待も大きく膨らんだ矢先の出来事だった。
誰もが喜んでトレードを望んだ数年前を思えば……。
その通り過ぎる。過去にも環境を変えて活躍した選手の例は枚挙に暇がない。特に横浜は昨年まで多村、小池、鶴岡、吉川、寺原と「ベイスターズを出た選手は移籍先で活躍する」という、ファンの間で語られていた不名誉極まりない都市伝説みたいな話があり、これは実際に放出された選手の間でも噂になっていたという話を聞いた。
数年前。100敗ペースで負けていた最悪のチーム状況の頃に、当時在籍していた選手が「今のベイスターズに残りたいと思う人はいないんじゃないですか。みんな喜んで出て行くと思いますよ」と言っていたことを思い出す。
その当時を思えば、トレードが決まりチームから離れる日、藤田一也が涙でチームメートに別れを告げ、またチームメートも涙に暮れ、「楽天で現役を全うしてからでも、いつかここに戻ってこいよ」と声を掛けた人間がいたという話は、救われた思いになる。
藤田を失った痛みはあまりに辛い。チームの大ピンチを救う芸術的な守備、シュアな打撃も開花しつつあり、夢を見られる選手だった。それを、ハマの街から北の街まで素敵な夢を届けてどうすんだ……という無念の思いは、少しの間、内村に対する楽天ファン同様にどうやったって残るだろう。
生え抜き同士のトレードはファン獲得の秘策!?
だが、決まった以上は藤田の楽天での活躍を祈るしかない。移籍後に楽天で出場した試合の打席は横浜にいた時よりもハラハラして見ているが、心の底から愛しかった選手だからこそ、楽天ファンにも受け入れられ、長く愛される選手になって欲しいと願う。それは直人を失い、また内村を失った楽天ファンの心情としても同じこと。だから、直人も内村も藤田以上に声援を送らなければ。ルイーズも。
そして、もうひとつ。こんな思いの強い選手同士のトレードは、互いのチームに楽天ファン・ベイスターズファンを新たに作る切っ掛けになるような気もした。ファン獲得にあの手この手を打ってくるDeNAと楽天という頭脳集団なら意図的にやらないでもないような。だとしたら恐るべし、ハマネット。なのだが。