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5失点を“期待”に変えた初登板。
ダルビッシュの110球が物語るもの。 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byAP/AFLO

posted2012/04/11 11:55

5失点を“期待”に変えた初登板。ダルビッシュの110球が物語るもの。<Number Web> photograph by AP/AFLO

イチローには4打数3安打と打ちこまれたダルビッシュ。打たれた理由として「イチローさんはもともとすごい選手。今日は綱渡りの投球だったので、誰に打たれても当然」とコメント。ツイッターではファンの祝福メールに対して「あんなんでおめでとう言わないでください」とつぶやいていた。

今回の登板で明らかになった、チーム首脳陣の信頼感。

 自分の好不調に関わらず、マウンドを降りるときにチームが勝つチャンスを残していることこそが、首脳陣やファンがエースに求める条件だ。その役割をダルビッシュが見事に果たしたからこそ、ファンは大歓声で彼の降板を見送ったのだ。

 また今回の登板で浮き彫りになったのが、ダルビッシュに対する首脳陣の信頼感だ。中継を観戦していた方はご存知だろうが、初回の乱調が続いた際、首脳陣はブルペンでロングリリーフの投手に用意をさせ始めた。たぶん2回も四死球を乱発していたら交代させていただろうが、制球が乱れ1失点されながらもそのまま続投させた。そしてさらに5回終了時点で90球を越えていたのに、さらに6回も続投させ110球まで投げさせた。

 これは先発4番手で、しかもメジャー1年目の投手に対する扱いなどではない。まさにエース級の投手に対するそれだった。

「今後に期待を持たせてくれる投球だった」(ノーラン・ライアンCEO)

「今日の投球はダルビッシュの経験を反映したものだ。もしあのような場面を経験したことがない他の若い投手だったら、まったく違ったことになっていただろう。ファンの期待する投球ではなかったかもしれないが、申し分ないものだったし、今後に期待を持たせてくれるものだった」

 ノーラン・ライアンCEO兼球団社長も満足そうにダルビッシュの投球を振り返り、更なる活躍に期待を寄せている。

 ファンの期待もまったく衰えてはいない。前述の地元紙もウェブでは、9日から「今シーズンのダルビッシュは何勝する?」というアンケート調査を実施したが、投球から一夜明けた10日になっても、全体の60%以上が15勝以上すると予測する一方で、10勝以下としたファンは9%にも満たないという結果になっている。今後も地元ファンの大きな期待を背負いながらの登板になりそうだ。

 もちろんダルビッシュは、まだメジャーにその第一歩を印したに過ぎない。今回の投球で彼のすべてを論じることは不可能だし、また今後の投球の善し悪しでメディアの評価も二転三転するだろう。だが、自分の投球だけで決まるわけでもない勝敗は度外視して、ダルビッシュがシーズンを通して30試合以上に登板し、200イニング以上を投げることができれば、シーズン後には誰もが彼をエースとして称えることになるだろう。

【次ページ】 ある選手と酷似する……野球に対する極端に厳しい姿勢。

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