スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
“奇跡の復活”よ、もう一度……。
アビダルが挑む肝臓腫瘍との戦い。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2012/03/22 10:30
バレンシア戦でメッシ、セスクとともにゴールを祝うアビダル。ライバルを率いるモウリーニョも温かい応援メッセージを送っている。
プジョルは「今回も病気を克服する」と信じ続ける。
その宣告を受けた後、アビダルは2つの試合に出場した。1つは2月26日のリーガ25節アトレティコ・マドリー戦。もう1つは同29日の国際親善試合、ドイツ対フランス戦。バルサとフランス代表、2つの愛するチームのシャツを着た彼は、共に左サイドバックとしてフル出場し、敵地で2-1の勝利に貢献する。そしてこの2試合を最後にピッチを離れ、連日にわたって手術へ向けた精密検査をこなしていく。クラブが公式HPでアビダルにおける病の再発と数週間内に肝臓移植手術を受けることを公表したのは、昨年の発覚からちょうど1年が経過した3月15日のことだった。
同日行われた練習前、選手達はグアルディオラ監督の口からそのことを伝え聞いた。練習後に会見を行ったプジョルによれば、彼は1年前に腫瘍の存在を公表した時と同じく普段と何ら変わらない様子だったという。プジョルは言う。
「本人と話したけど、元気だった。あいつは信じられないほど強い男だ。昨年もそうだったように、今回も病気を克服するはずだ。病気だなんて言われたら誰だって落ち込むはずだけど、あいつは逆に俺達を励ますんだよ」
たとえ手術が成功しても、現役復帰の可能性は……。
とはいえ、アビダル再手術の知らせは昨年以上の大きな衝撃を我々に与えた。肝臓の一部を摘出した前回と他人の臓器を移植する今回とでは、手術に伴うリスクの大きさが違う。それに手術さえ無事成功すれば再びピッチに立てる見込みがあった前回とは違い、今回は普通の日常生活に戻ることが目標であり、現実的に現役復帰の可能性は限りなく薄いのである。
スペインの国立臓器移植委員会の会長を務めるラファエル・マテサンス医師は、アビダルの現役復帰の可能性について次のように見解を語っている。
「非常に難しいと思う。手術は間違いなく成功するだろう。彼は強い人間、トップアスリートだ。完全に普通の生活ができるようになる。ハードな運動だってできるようになる。実際に移植者のオリンピックだってあるくらいだからね。だが、フットボールは接触プレーを伴うスポーツだ。そして臓器移植後に避けなければならない重要な事柄の1つが患部に衝撃を与えることなんだよ」