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高橋も浅田も口にした「悔しい」。
全日本フィギュアで見た世界一の志。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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posted2011/12/30 10:31

高橋も浅田も口にした「悔しい」。全日本フィギュアで見た世界一の志。<Number Web> photograph by AFLO

浅田真央(前列左から2番目)、高橋大輔(後列左から2番目)がともに2季ぶり5度目の優勝を果たした全日本選手権。浅田は3月の世界選手権で、2008年、2010年に続く3度目の優勝を狙う

母の死を乗り越えて優勝した浅田の演技にも後悔が。

 一方の女子を制したのは浅田真央だった。

 ショートプログラム2位から逆転優勝を果たした浅田は、フリーのあと、キス&クライに戻ると、しきりに「悔しい」と口にしたと言う。

 心の整理をつけるのはやさしくはなかっただろう。乗り越えるのも簡単なことではない。それでも今大会の舞台に立ち、プログラムを演じた精神力それだけで敬意に値する。しかも優勝を遂げたのだ。

 だが浅田は、「悔しい」と口にする。

 そこにこめられた思いは、男子の選手たちの言葉の意味合いとは微妙に異なるかもしれないが、第一人者としての矜持もまた、そこにあった。

 総合2位の鈴木明子、3位の村上佳菜子もまた、それぞれに悔しさをかかえていた。

現状に満足しない志の高さが日本の強さの原動力だ。

 以前は全日本選手権で、内容はどうあれ選手たちが結果にホッとしたり、そのことを言葉にする姿というのも珍しくはなかった。代表選考がかかっている大会では、まずは結果を残すことが目標になるだろうし、だからそれはごく自然なことでもあった。

 今回の全日本選手権でも、上記の選手たちにとっては、表彰台に上がるということは代表入りを確実にする指標としてあったはずだ。

 なのに彼らはみな等しく、滑りの内容に満足せず、悔しさを露わにした。

 たぶんそこに、現在の日本のフィギュアスケートの強さの一端がある。

 他者との比較などがどうこうというより、自身の目指すべき世界、基準がある。そこに達しえたか否かが、彼らの満足度につながる。

 目標とする場所を、高く置いている。

 その志の高さがひとりひとりにあること、自分を高めたいという欲求が、強さにつながっているのではないか。

 こうして全日本選手権は終わり、2月にアメリカ・コロラドで行なわれる四大陸選手権と、3月末に開幕するフランス・ニースの世界選手権のシングルの日本代表が選ばれた。

 男子が高橋、小塚、羽生。

 女子は浅田、鈴木、村上。

 現状に満足しない彼らは、シーズンの佳境を迎え、さらに深化した滑りを目指して進んでいく。

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