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<4年間の集大成> 安藤美姫 「揺れ動く感情の間で」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTsutomu Takasu/JMPA
posted2010/03/10 10:30
磨きをかけてきた表現力が指先の仕草に込められていた。
迎えたフリーの『クレオパトラ』は、試合ごとに衣装を変えて話題を集めてきた。この日は、緑を基調にしたコスチュームでの登場である。
冒頭のジャンプから立て続けに成功させると、ほとんどミスのないまま、安藤は滑り続ける。
この1年、ジャンプばかりがフィギュアスケートじゃない、と気づいてから、表現に力を注いできた。成果を試される瞬間だ。クレオパトラの人生に思いを馳せ、指先のしぐさにまで神経を集中する。エスニックなメロディに身を委ね、安藤は優れた表現者としての姿を誇示するかのように、演じ続ける。
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曲が途切れ、安藤は宙をみつめた。やがて視線を観客席に向けると、微笑んだ。
124.10。総合188.86。
どこかスピードに欠けたのが、低い評価につながったのだろうか。その後に続いたキム・ヨナ、浅田真央、ジョアニー・ロシェットが、大幅にシーズン・ベストを更新して総合200点台にのせたのと、対照的だった。
自身の成長を実感したトリノ五輪との「違い」。
終わってみれば、ショートからひとつ順位を落としての5位。
それでも安藤は、笑顔を見せながら振り返った。
「ショートのあと、自分に対して悔しかったので落ち込んでいたんですね。でも、結果だけじゃないって、1日の休みの間に気持ちを整理しました。結果だけじゃなくみなさんに対する感謝の気持ちを込めて演技することが大事だなって思えたので、よかったと思います。やっぱり4年前は失敗ばかりしていて、自己満足で終わっていたと思うんですけれども、自分なりに成長した演技はできたかな、と思います」
トリノ五輪の時との違いについては、こう語った。
「気持ちを強く持てた、成長できたかなって感じられるところがありましたし、フリーもうまくまとめられたと思う。そういう面では満足しています」
だが、感情のすべてが「満足」ではないことを、時折うかがわせた。
次のオリンピックについて尋ねられた安藤は、一瞬、「えっ」と戸惑いを見せた。
「4年後なのでまだわからないですけど。でも、3回目ですよね? 三度目の正直っていうのもいいかなって思います」
こうも言った。
「1日1日を大切に。やっぱり自分の人生も、スケートの人生も、両方、一歩ずつ成長していけば、その時が来れば、そうなるだろうし」
含みのある言葉だった。