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新レギュレーションが及ぼす影響。
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byAFLO
posted2009/01/29 00:00
1月19日、ポルトガルはアルガルベ・サーキットで、いよいよ今季初のF1テストが開始された。参加チームはマクラーレン、ルノー、トヨタ、トロロッソ、ウィリアムズの5チームで、トロロッソ以外の4車はすべて発表したてのニューマシンばかりである。
正式名称「アウトドローモ・インテルナシオナル・ドゥ・アルガルベ」という聞き慣れない名前のこのサーキットは、ポルトガル南部ポルティマオ市に新しく建設された、全長およそ4.6kmの右回りコース。ファロ空港に近く、このあたりはかつて世界ラリー選手権のステージにもなったところで、まんざらモータースポーツ辺境の地というわけでもない。
さて、今年のF1はマシン・レギュレーションが大きく変わる年である。その骨子は(1)空力デバイスの大幅制限、(2)スリックタイヤの採用、(3)KERS(エネルギー回収装置)搭載許可……の3つだが、このうち(3)は義務付けではなく、果たしてどのチームが装着してくるのかはシーズンが始まってみないと分らないところがある。
KERSはひとまず措いておくとして、マシンのパフォーマンスはどう変わるのだろうか。新車を見て外観ですぐ目につくのは、'08年車両に較べてフロントウイングが薄く真っ平らに近くなり、リヤウイングの幅が狭く、ウイングレットやチキンウイングと呼ばれたサイドポンツーン周りのパーツが取り去られたことだ。このことによってマシンを空力的に路面に押し付ける力、いわゆるダウンフォースは前年車両に較べて半減されると言われ、事実、昨年初めてウィリアムズの'09年暫定車両で走り出した中嶋一貴は「もの凄いオーバーステアでビックリしました」と、言っていたものである。マシンの抑えが足りず、コーナリングでリヤが外側へ滑り出してしまうのだ。このことからも分かるように、空力デバイスの制限はマシンのパフォーマンスを削ぐことを意図していて、大まかな試算ながらラップタイムは2~3秒落ちるのではないかと予想されている。
一方、'97年以来12年ぶりに採用されることになったスリックタイヤだが、メーカーは日本のブリヂストンの独占供給。'08年までは前後タイヤに4本のグルーブ(溝)が入っていたが、それがなくなってタイヤ表面が平滑になったということはその分接地面積が増えるわけで、また、走り始めに溝の端がめくれてしまういわゆるグレイニング(めくれ摩耗)もなくなり、タイヤのパフォーマンスは明らかに向上すると予想されている。では昨年と今年と純粋にタイヤだけにフォーカスしての上がり代はどれくらいなのか? ブリヂストンの浜島裕英MS・MCタイヤ開発本部長に聞いたところでは「平均ラップタイムで2.5~3 秒くらい上がると思われます」とのことだった。
ダウンフォース減で2~3秒、逆にスリックタイヤで2.5~3秒アップということは、相殺されてほとんどプラス・マイナス・ゼロ。すなわち試算では、今年の平均ラップタイムは昨年並みに落ち着くと予想されている。
その予想が果たして当たるのか当たらないのか。昨年12月のアルガルベ・テストではマクラーレンの暫定マシンを駆ったペドロ・デラロサが1分29秒をわずかに切るタイムを記録している。1月第4週のアルガルベ・テストは開始日からヨーロッパ南部を襲った天候不順に見舞われ、わずかに晴れ間が見えた3日目に旧型トロロッソを操るセバスチャン・ブエミが1分28秒を切ったものの、'09年型新車でのトップタイムはウィリアムズを駆るニコ・ロズベルグの1分29秒7。まだまだ本領発揮とまでは行かないようで、また、同所で新車を走らせたトヨタの山科忠チーム代表は「みんな三味線弾いてたからね」と苦笑している。次回の合同テストは2月初旬のヘレス(スペイン)。好天下でのタイム合戦が見ものである。