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レアル復活のキーワードは「左」。 

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鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

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photograph byTomohiko Suzui

posted2006/09/27 00:00

レアル復活のキーワードは「左」。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 卵白と砂糖を固く泡立てると、純白のメレンゲができる。だから、レアル・マドリー(白い巨人)はメレンゲという愛称で呼ばれたりもする。けれども、スペイン語ではこのメレンゲをもうひとつの意味で使うこともあるみたいで。誰がいったか、ひ弱な人、とも。

 泣いてばかりいる子どもにお母さんは、「ほんとこのコはメレンゲね」というらしい。なるほど。メレンゲねぇ。では、いまのレアル・マドリーにはどっちがお似合いか、と。

 ひ弱なのか?とんでもない。すくすく育ってます。

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 チャンピオンズ・リーグでリヨンに負けたのが、ポイントだ。すこすこに抜かれたカンナバーロを非難する声が聞こえたけれども、この散々なる敗戦によってカペッロが手を加えたのは、攻撃陣だった。なんせ、2対0というスコアよりも悲しいお知らせがある。リヨンが13本のシュートをイケル・カシージャスに浴びせたのに対して、レアルはラウールとレジェスの2本だけしか枠に飛ばなかった。2点を失ったのは前半で、後半はなにしてたんだ、という話になる。ゴールを奪う気があるのか、と。

 あれから、ベッカムとラウールは控えにまわされている。グティとレジェスが先発だ。そう、レフティを2枚起用している。復活のキーワードは、左利きだった。

 スペインからヨーロッパまでを制覇していた時代には、いつも最高のレフティがいた。10年前のカペッロのときには、スーケルとレドンド。デル・ボスケのときにはジダンとソラリ。もちろん、いまだってカシージャス、ラウール、ロベルト・カルロス、ラウール・ブラボにグティらがいるけど、いまのレアルに必要だったのは、レジェスのような左利きのウイングだった。

 左利き。レフティ。野球ではサウスポーなんて呼ばれる。スペイン語では、スルドという。右利きにはない特別な呼び方が左にはある。彼らは独特のリズムで、しかも天才児が生まれやすいときたもんだ。ダ・ヴィンチ、ナポレオンもそう。ディエゴ・マラドーナもそうだ。王さんも、左だ。

 ただ、世の中は右利き有利にできている。左利きは、たびたび泣かされる。例えば、ハサミやカメラは右派だ。でも、誕生したばかりの赤ん坊の利き手の確率はフィフティ・フィフティという。それがいつしか、世界の90パーセントといわれる右利きに染まるわけで。だからこそ、小数派のレフティのさじ加減ひとつで右の世界は変わる。「レフティ論」を唱えても、いいんじゃないか。

 ある研究では左利きの人は空間認知力が優れていると論じている。空間認知力とは、「ボールが止まって見える」と名言を残した巨人の川上哲治の選球眼のことだ。なんでも、左利きは右脳(イメージ脳)を刺激するらしい。

 フットボーラーにおいても、こういった説が考えられる。レフティが描くゴールへの軌道は右利きとは違った線が描かれているのか、と。裏を返せば、90パーセントを占める右利きとは違った展開を読んでいる、と。ほう。

 今季からベティスで指揮を執るイルレタも、確か左を求めていた。

 「まずは左のミッドフィルダーを定着させたいし、信頼できる左利きの選手が欲しい」と開幕前にこぼしていた。イルレタの願いは半分だけ叶った。セルタのレフティFW、ネネ獲得は失敗したけれども、ポルト・アレグレから左利きのMFホルヘ・ワグネルを手にしている。バルサもバレンシアも、アトレティコも鋭い左の「翼」がある。しかも、今季のバレンシアには9人のレフティがいるのも、キケ・フローレスの戦略だろう。

 丹下のおっちゃんが矢吹丈に送った手紙を懐かしく思う。「左を制したものが、世界を制す」と。そうだ。左のジャブだ。「立て、立つんだメレンゲ」、レアル・マドリーはトリプル・クロスカウンターを放てるのか?スペインリーグ版『あしたのジョー』は、誰だ。

#レアル・マドリー

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