MLB Column from USABACK NUMBER

新旧野球セオリーの対決 再び 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2004/06/10 00:00

新旧野球セオリーの対決 再び<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 前々回、カージナルスが、9回裏同点の場面で、4・5番が連続して送りバントを試みた話を紹介したが、先日、カージナルスとまったく正反対のシーンを目撃した。 

 5月19日のツインズ=ブルージェイズ戦、9回表ツインズがマシュー・リクロイの代打満塁本塁打で6対5と逆転した直後の9回裏、ブルージェイズが無死1塁の場面で強攻、投ゴロ・ダブルプレーと「最悪の結果」になったのだ。 

 これが日本だったら、「まず同点にすることを考えて送りバントをするのが常識なのに、ブルージェイズは一体何を考えているのか」と解説者が嘲るところだが、ブルージェイズは「送りバントは愚かな戦略」という「新思考派」を代表するチームだけに、信念を持っての強攻だったのである。「内野ゴロでダブル・プレーになる確率は5%しかない。5%しか起こらない『最悪の結果』を恐れてわざわざバントでアウトをプレゼントできるか」というのが新思考派の理論が主張するところだからである。 

 新思考派の理論を信奉してバント嫌いを徹底しているのはブルージェイズだけではない。ブルージェイズに加えて、アスレチクス、レッドソックスもバントをしないことで知られ、昨年・一昨年とも、この3チームで、チーム送りバント総数のア・リーグ下位3チームを形成した。

 特に、アスレチクスのビリー・ビーンGMの送りバント嫌いは有名で、このことは日本でも翻訳された『マネーボール』にも詳しく書かれている。たとえば、『マネーボール』の中に、アダム・ピアットという選手が自分の判断で送りバントをした際、当時監督だったアート・ハウがダグアウトに戻ってきたピアットに、「今のバントはお前が勝手にやったことで俺の責任ではないからな」と念を押すシーンが出てくる。ハウがそんな念押しをしたのも、「何故バントなどした!」と自分がビーンに怒鳴られるのがイヤで、責任の所在がピアットにあることを明確にしておきたかったからである。

 ところで、前々回紹介したカージナルスのエピソードだが、5番のローレンがバントをしたのは、実は、サインの見間違いだったという(私を含め「意外な作戦」と驚いた人が多いのも不思議はない)。そして、なぜ、ローレンがそんなサインの見間違いをしたかというと、カージナルスは昨年のチーム・バント数がナ・リーグ1位であったことが示すように、「送りバントは大事」という守旧派を代表するチームであったという素地があったからである。バントが「禁止」されているも同然の新思考派のチームでは決して起こり得なかったサイン違いだったのである。

 サイン違いとはいえ、送りバントを決めたローレンは、試合後クラブハウスでヒーロー扱いだったというが、もし、これが、アスレチクスで起きたことだったら、ヒーロー扱いどころか、ビーンGMに「チームの基本方針を無視した」と、凄い剣幕で怒鳴られていたに違いない。そして、もしビーンが、無死1塁なら初回でも判で押したように送りバントをする日本の野球を見たら、きっと、ショックで口から泡を噴いて倒れるに違いない。

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