杉山茂樹のサッカー道場BACK NUMBER
岡田ジャパンのプレスが、
最後まで持たない本当の理由。
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byTakuya Sugiyama
posted2009/10/07 11:30
9月5日のオランダ戦、後半パタリと日本代表の足が止まり、立て続けに失点を浴びてしまった
攻撃が終了した瞬間、守備の時間が始まる。当たり前の話だが、これがサッカーの特徴だ。プレッシングを謳うチームほど、そこへのこだわりが必要になる。「あーあ、ボール取られちゃった。ふー。さてと、嫌な守備でもしましょうか」は、許される態度ではないのだけれど、そうした意味では、日本人はプレッシングに先天的に向いた人種だと思う。
サボりや怠け癖を、社会として嫌う傾向がある。全員野球という言葉に代表されるフォア・ザ・チームの精神や、勤勉、忠実、真面目を美徳とする精神が世の中のベースに流れている。そこに優位性を見出し、外国人よりいい加減ではないというプライドを持つ日本人は多くいる。プレッシングは、日本人気質を発揮する絶好の機会。発揮のしどころだとさえ言える。他国に劣るわけにはいかないポイントになる。
プレスが90分間持たない……加茂ジャパンと同じ原因が。
先のオランダ戦。日本代表の足は後半なかばでパタリと止まった。プレッシングは90分間持たなかった。原因は前半の飛ばしすぎにありと言われる。岡田サンは試合後の記者会見で「最後まで持たなければベスト4は望めない」と語った。
この台詞、岡田サンがコーチを務めていた加茂ジャパン時代にもよく耳にした。岡田サン同様、加茂サン自ら何度も口にした。オランダ戦後の岡田サンの記者会見を聞いていると、12年前がとても懐かしく感じられた。
その頃、欧州でも、それと似た症状が目立っていた。後半なかばを過ぎると、トップと最終ラインとの距離が広がり、プレスのかかりが鈍くなるチームが目についた。
しかし、少なくともチャンピオンズリーグで上位に進出するチームに、今そうした傾向は見られない。前線と最終ラインとは狭い距離で保たれている。進歩の跡ははっきりうかがえる。12年前より、選手が勤勉で忠実で真面目になっているのだ。強引に言えば、日本人化している。有名選手でさえ、フォア・ザ・チームの精神に則り、相手ボールをきちんと追いかける。
CLは大きく進歩したが、日本代表は12年前から変わらない。
技術的に巧い選手が真面目なプレーに及べば、それはもはや手に負えなくなる。チャンピオンズリーグから番狂わせが激減してしまった大きな理由でもある。銀河系軍団と言われたかつてのレアル・マドリーのような、穴のあるビッグクラブは、もはや存在しない。
そこから日本代表のプレッシングに目を移すと、悲しい気持ちになる。12年前に比べ、こちらには進歩がない。日本代表に不真面目な選手が多くいるわけではない。走力が落ちたわけでもない。彼らはへろへろになるまで頑張っているのに、だ。