スポーツの正しい見方BACK NUMBER
トム・ワトソン、59歳。
全英オープンで魅せた名人芸。
text by
海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa
photograph byGetty Images
posted2009/07/30 11:30
全英オープン最終日。沈めれば優勝が決まる18番ホールのパー・パットを外し、スチュワート・シンクに並ばれたワトソン。敗れはしたが、ワトソン健在をアピールするには十分すぎるほどの活躍だった
40代でツアー優勝し、シニアツアーでも勝ち続けたが……。
ワトソンは、シニアツアー入りする直前の'98年のマスターカード・コロニアルでも優勝した。PGAツアー39回目の優勝で、その後シニアツアーでも12回優勝した。
ワトソンはまったくすぐれたゴルファーだった。そうでなければ、イップスにかかっていないゴルファーでも40歳代でPGAツアーに勝つのはむずかしいのに、46歳と48歳のときに勝って、シニアツアーでも勝ちつづけているのである。
しかし、ワトソンのイップスは完治したわけではなかった。メモリアル・トーナメントで復活したあとも、パット、とくに短いパットはこわごわと自信なげに打っていた。それを入れれば勝ちというパットを入れるよりも、入らなければ負けというパットを外す試合を見せられるほうが多かった。
最終ホールで力尽きた59歳の姿に青木功は涙を流した。
だから、今度の全英オープンもワトソンのパットを見ているのがつらくて仕方がなかった。ワトソンは59歳になってもおとろえないそのたぐいまれなるショットで、イップスをカバーしていた。そして、最終日の最終ホールまで首位を守った。タイガー・ウッズまでが予選落ちしたあのターンベリーの荒天の下で、59歳の男がやっていることとはとても思えなかった。
だが、その最終ホールで力尽きた。2打目がグリーンオーバーし、パターで打った3打目はカップを3mオーバー。4打目のパーパットは弱々しすぎてカップに入らなかったのである。そして、4ホールのプレーオフでスチュアート・シンクに敗れたのだ。
試合後、テレビのリポーターをつとめていた青木功はワトソンのために泣いたそうだが、ぼくは最終ホールのパーパットが外れた時点でもうとても見ていられなくなって、テレビを消してしまった。