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長崎清峰高校 短かった夏。/センバツ優勝の快挙の裏で
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byShinichiro Nagasawa
posted2009/08/03 11:30
選抜大会では最速148キロをマークしたエース今村猛。女房役の川本真也と
強豪他校も見習った名物の猛練習。
清峰の優勝を昨年の秋の時点で予言していた人物がいる。徳島の強豪、鳴門工業の監督の高橋広だ。高橋は2年前の冬、「今もっとも勢いがあるチーム」という理由で、清峰の練習を見学にいったそうだ。
「あのとき清峰は今、いちばん日本一に近いチームだと確信しましたね。選手の体つきがぜんぜん違った。相当やり込んでいる証拠ですよ。たぶん来年の春あたり、いきますよ」
練習量の多さではいくつもの常識外れな伝説を持つ鳴門工業の指揮官でさえ、清峰の練習内容には舌を巻いていた。そのトレーニングを課していたのが、野球になると人が変わるという清水だった。
「技術の向上にはいろんなところからのアプローチが必要ですけど、まずは体力がないことには技術は入っていかない」
清峰の名物メニューといえば「丸太ダッシュ」だ。5キロから7キロの丸太を抱えたまま、300メートル弱の距離を走る。2チームに分かれ、それぞれ10本ずつ、制限タイム内に全員が走り切ることができれば終了となる。
「最終的には、だいたい30本から40本はやる。最高だと60何本までいったことがある。全部やるのに、だいたい2時間前後かかります。ストップウォッチを持っているのは僕ですから、本数はいかようにでもできる。そのあたりは時期や体力を見ながら、調整していました。ただ、抜いてやったら意味がないので、けったくりながら、罵詈雑言を浴びせながら、やらせていました。人間、意外と丈夫ですからね。でも4回ぐらい、救急車を呼んだかな。脱水症状になってしまうんですよ」
'06年春、準優勝したときのエースで、今は三菱重工長崎で現役を続ける有迫亮が話す。
「昔は清水さんが憎くて仕方なかった。『おら、やれ!』みたいな感じで言われて。思い出すのも嫌。でも、あの練習があったからこそ、今の自分があるのも間違いない」
140キロ投手を育てる清水コーチの卓越した指導手腕。
また、投手を指導していたのも清水だった。それだけに投手陣からの信頼は厚い。'05年夏、甲子園に初出場したときのエースの古川秀一も同じだ。古川は今は、日本文理大の主戦だ。
「清水さんに教わった人のほとんどが140キロを投げられるようになっている。清峰の強さの秘密は清水さんだと思いますよ」
試合における相手チームのデータ分析なども清水の仕事だった。清水が言う。
「基本的には時間が許す限り、データ分析に費やしていました。4日間あったら4日間、ノイローゼになるぐらいやってましたね」
有迫が当時を思い起こす。
「大会期間中、栄養剤とかをもらいに清水さんの部屋に行くと、必ずビデオを観ていました。僕は100%、清水さんのデータ通りに投げていた。それが見事にはまるんですよ」
普段の練習から試合前の準備まで、その多くを清水がこなしていた。これだけやっていれば、県内の他校の監督が「清水コーチがいなくなった清峰は怖くない」と言うのもわからないでもない。