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清宮ワセダ 悲願のトップリーグ撃破。
text by
藤島大Dai Fujishima
posted2006/02/23 00:00
これも「番狂わせ」の範疇なのだろうか。
地面の球にむしゃぶりつくのは赤黒のジャージィばかりだ。接点の攻防で優位に立ち、モールを押してはトライを稼ぎ、スクラムも制御できた。たまに手痛いミスもありながら、とうとうリードを許さない。
早稲田、トヨタを破る。学生さんが、ふたりの元オールブラックスを含む国内最高リーグの上位をやっつけた。断片を切り取れば、以下のごとき対比も可能だ。
開始13分、同じ背番号5が体をぶつけ合った。早稲田大学理工学部3年、愛知県立千種高校出身、1m84cm、96kg、後藤彰友をめがけ、ニュージーランド代表キャップ15、1m97cm、120kg、29歳、トロイ・フラベルが襲いかかる。世界のラグビーの規範では交わるはずのない個性である。
経験、体格、環境の開きは確かだ。物事の道理としてあってはならぬ結果は、だが、どうやら戦う前に決していた。つまりトヨタは、あっけなく早稲田のリングへ引きずり込まれた。絵を描いたのは、もちろん、あの男だ。無敵の学生王者を率いる清宮克幸である。
「トヨタには勝てる」
さまざまなメディアを通して勝算は発信された。昨年度も日本選手権で対戦、残り10分までは早稲田がリードする接戦を演じている(トヨタが28-9で勝利)。その記憶も手伝って、本来は相手を飲み込む立場が「許されざる敗北の恐怖」に飲み込まれた。
象徴が陣地の選択だ。秩父宮には強風が吹いていた。トヨタはトスに勝って風下を選んだ。ゲームキャプテン難波英樹は試合後に明かした。「後半勝負。リードされても10点差以内ならOKと思っていた」。
なんとナイーブだろう。トップリーグの強豪なのだから、強風を背に、いきなり問答無用で蹂躙すべきだった。「3週間、早稲田戦への準備を尽くした」(朽木英次監督)。結果、格下のはずの相手の長所がより大きく映ってしまった。展開を意識したメンバー編成、低いタックルを避ける戦術構築、なにもかもは「まず早稲田ありき」の後追いだった。
まさに清宮監督の術中にはまった。以下は会見の発言より。トヨタ風下の選択に「やった」。モール勝負は「トヨタの失点でいちばん多いから」。スクラムの背後に切り札の今村雄太を配したのは「ああすると(意識が拡散してトヨタが)押せなくなるんです」。トヨタの自軍投入ラインアウト獲得はわずか「5/13」。ほぼ完璧に丸裸にして「スカウティングとインテリジェンスの勝利」。
トヨタのフラベルは言った。
「ワセダには本当に感銘を受けた。絶対にあきらめずに立ち向かってくる。コーチが際立った仕事をしているはずだ。とても訓練されておりプレーメークが適切だ」
翌日にはオールブラックス復帰含みで帰国した世界の顔の言葉は、パワー勝負に傾くトップリーグの課題を突きつけてもいる。