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小笠原満男「代役では終らない」 

text by

西部謙司

西部謙司Kenji Nishibe

PROFILE

posted2005/09/01 00:00

 小笠原満男にとって、イラン戦は真価を見せなければならない試合だった。

 「長期にわたってプレッシャーのかかる予選を戦い、慢性的な疲労が見えた」

 ジーコ監督は、東アジア選手権でのスタメン総取り替えをリフレッシュが目的だと説明したが、中国戦に続いて韓国戦もベンチに置かれれば、選手の心中は穏やかではない。

 他の選手同様、小笠原にとっても正念場だったと思う。彼の立場は少々複雑だ。

 日本代表の戦術上のキーパーソンは中村俊輔である。ジーコ監督の戦術は、ホームでもアウェーでも基本的に変わらない。相手によって大きく変わることもない。本大会には、また別の展開もあるかもしれないが、少なくともこれまではそうだった。

 攻撃面ではボールをキープし、ショートパス主体にしっかりつないでいく。いわゆるポゼッション型のスタイルだ。もちろん速攻もやるが、基本的にはポゼッションなので相手に引かれるケースが多い。引いた相手を崩すには技術とアイデアが要る。就任当初、ジーコ監督は「創造性のサッカー」という看板を掲げたが、逆にいえばそれがなければ埒があかないサッカーでもある。

 先のコンフェデレーションズカップでようやく看板と内容が一致した。インスピレーション部門の担当は中村。やはり不可欠の選手である中田英寿がポジションを1つ下げたことで、効果的に中村を生かすことができた。小笠原も中村の相棒として活躍した。

 だが、もし中村がプレーできなかったらどうなるのか。

 「そのときはピレスがいる」

 これは「ジダンがプレーできなかったらどうするのか」と質問したときのエメ・ジャケ監督の答えだった。フランスが優勝した'98年ワールドカップが始まる数カ月前の話だ。

 「あるいは、全く別の方法になるだろう」

 ところが、実際に大会2戦目でジダンが退場処分を食らった後、フランスは危うくパラグアイに葬られるところだった。ジダンの役割を担ったのはユーリ・ジョルカエフで、彼がジダンの代わりになりえないのは、それまでの強化試合ですでに証明されていたとおりであった。延長Vゴール、薄氷の勝利だった。

 ジャケの言った「全く別の方法」など存在せず、ジダンを欠けば全く別のチームになってしまう現実があるだけだった。ジャケは運良く難局を乗り越えたが、4年後にロジェ・ルメール監督のフランスが同じ問題でつまずいたのは、ご存じのとおりである。

 ジーコ監督の日本は同じサッカーを続けてきたが、中村が機能した場合と中村が不在だったり機能しなかったときとでは、別のチームになっている。

(以下、Number635号へ)

小笠原満男

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