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マルコス・セナ 「ビジャレアルの冒険」 

text by

横井伸幸

横井伸幸Nobuyuki Yokoi

PROFILE

photograph byDaisuke Nakashima

posted2008/09/25 19:09

マルコス・セナ 「ビジャレアルの冒険」<Number Web> photograph by Daisuke Nakashima

人口4万9000人の町でシーズンシートが2万席売れる。

 目前の芝の上ではミニゲームが始まった。通常の4分の3ほどに狭めたピッチで11人対11人。ボールを目で追ってみた。

 左サイドのマティアス・フェルナンデスが中へ持ち込んでエジミウソンとワンツー。戻ってきたところをそのまま右サイドのハビ・ベンタにはたく。それがトップのギジェ・フランコへ。再びマティアスへ。

 まったく止まらない。

 反対のチームでは、身体の小さなカソルラがこまねずみのようにきりきり走る。マヨルカから加入したプレイメイカー、アリエル・イバガサが狭いところにパスを通す。カプデビラが敵ゴール正面で、ボールを呼んでいる。

 セナの姿を探すと、目まぐるしく動く選手たちの軸、ちょうど台風の目にあたるところに立っていた。彼1人、同じ場所に留まっているように見える。が、もちろんそんなはずはない。読みが優れているので先んじて静かに動き、ボールを受けては次に展開しているのだ。裏方に徹した代表のときとは違う、「ここがチームの中心」と訴えるような空気をまとっている。

 見かけぬ顔がメモをとっているのが気になったのか、地元メディア陣の親玉のような男が話しかけてきた。

 「カソルラ、いいだろ。あいつはここのカンテラ出身だ。ビジャレアルは“良いサッカー”をするよ。国内では最高だね」

 最高かどうかは知らないけれど素晴らしいのは確かだ。とても気に入っていると答えると、同僚の男も加わり声を揃えた。

 「レアル・マドリーはもちろんのこと、バルサよりも良い。間違いない」

 念を押すように、こちらの肩をバンバンと叩く。

 スペインで“良いサッカー”といえば、真っ先に思い浮かぶのは、おそらくバルサのサッカーだろう。ヨハン・クライフが監督を務めた'90年代初頭以来、それはクラブが信奉する哲学にさえなっている。

 一方で、ビジャレアルも現在のフェルナンド・ロイグが会長に就任した1997年5月、同様の方針を打ち立てた。2年前のABC紙のインタビューで、会長は企業家らしい喩えをもってこう語っている。

 「会長になり、まずやりたかったのは良いサッカーをするチームを作ること。クライアントを獲得するには良い製品、つまり良いサッカーを用意する必要があったからだ。2部であろうと1部であろうと関係ない。ファンの心を掴まねばならなかった。外部の人間に、我々を評価させねばならなかった。

(続きは Number712号 で)

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