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ハーフタイム後、すべてがひっくり返った。
text by
岩永修幸Nobuyuki Iwanaga
posted2004/05/06 00:00
「地球へようこそ」
レアル・マドリーが敗れた翌日、スペインのスポーツ紙asは見出しにそう掲げた。「ギャラクシー」ことマドリーは、宇宙飛行から、全く喜ばしくない地球着陸を果たした。
「フィジカル面において、限界を超えたプレーをした、と私は見ています」
モナコのディディエ・デシャン監督は、第2戦での選手たちの健闘をそう評する。その点ではもしかしたら、フランスのレキップ紙が記したように、
「ギャラクシーはモナコ」
だったのかもしれない。
第1戦を終えて、デシャンはミスからの崩壊を悔しがっていた。
「第1戦の後半、オウンゴールという失態を犯した後、自分たちの意識を立て直すことに苦労しました。その結果、ロナウドやフィーゴらにスペースを与えてしまいました。マドリー相手には、自殺行為でしたね。オウンゴールについても、必要以上に仲間同士で責め合ってしまいました」
公式にはイバン・エルゲラの得点となっているが、オウンゴールにも見えたわだかまりの残る失点で、ペースは狂い、モナコはさらに3失点。希望は唯一、終了間際にモリエンテスが加点したことだった。
「2戦目は、戦略を立てるのが非常に難しかった。得点するために、守備を手薄にして攻撃に徹する……、言葉にすれば簡単ですが」
新進気鋭のデシャンでもさすがに苦しんだようだが、細かいコーディネイトは怠らなかった。第2戦のキックオフからすぐ、モナコはプレッシャーをかけ始めた。
デシャンはいくつかの対策を講じてきた。
「思い切って(ダド)プルソを、(フェルナンド)モリエンテスと(ルドビク)ジュリーの前に置くことにしました」
DFのジュリアン・ロドリゲスは、守備面での指示をこう明かす。
「とにかくロナウドをゴールに向かわせるなと指示があったから、ロナウドのマークに重点を置いたよ。一度でもボールを持たせてしまうと、彼はゴールへ一直線だからね。両サイドバックはサイドを固め、マドリーのFW陣を孤立させるよう言われた」
高い位置からマドリーのボールを抑えにかかり、そのまま攻め入る戦略は、確かに機能した。デシャンは、マドリーの弱点は守備しかないことにも目を付けていた。
だが、先制点はマドリーに。ロナウドはいい動きをさせてもらえないままだったが、
「開始から精神統一していた」
という主将ラウールが36分に決めた。ゴールのみならず、彼の素晴らしい仕事ぶり全般に、ロドリゲスはもうお手上げだった。
「例えばラウールは、彼自身とジダンを僕らがマークするように仕向けるんだよ。当然、僕らはそのサイドを防ぎに入るじゃない?― 気付いたら、ロナウドをフリーにしてあげているんだよね。正直、ラウールには参った」
しかしこのゴール後、試合の空気が変わり始めたと、デシャンは指摘する。
「マドリーは、この試合は突破したと、肩の力を抜いていくのが分かりました」
ジュリーがその10分後に同点とした。
「シュートの行方を皆が目で追っていたことを覚えている。マドリー側に沈滞と焦りが迫っていくのが手に取るように分かった」
常勝マドリーにしては、やけにあっけなく揺らいだ。ただこの時モナコはまだ、マドリーの状態を測りかねていたが。