中日・山内一弘監督は「何としてでも宇野に初めてのタイトルを獲らせたい」と考えていた。安藤は「きちんと勝負をした上で掛布に3度目のタイトルを」と思っていた。しかし結果は、両者ともに「10連続敬遠」という球史に汚点を残すものとなった。

「掛布は“勝負したい”と言っていたし、僕も勝負させるつもりでした。でも、相手が敬遠で来るのに、こちらだけ勝負させることはできなかった。宇野に打たれたこちらのピッチャーがダメになると思ったからです。でも、宇野への敬遠策はやっぱり僕の本意ではなかったですね」

　一連の出来事はコミッショナーからの勧告も飛び出し、世間を巻き込む大騒動となった。しかしペナントレース終了後、なおも阪神球団は静観を続けた。

「このとき、会社側が“ファンのみなさんに申し訳ないことをした。お前、何をしてるんだ！”と、僕を怒ってくれれば、ある程度で事態も収まったと思います。でも、それもなかった。あれは本当に残念でした」

1984年、敬遠の応酬によって本塁打王のタイトルを宇野勝と分け合った掛布雅之　©BUNGEISHUNJU

2人の名将に翻弄された監督人生

　球団サイドは、混沌とする事態に対して、徹底的に沈黙を貫いた。時を同じくして、安藤にとって信じられない事態も勃発する。

「ちょうどその頃、僕に代わる次期監督候補が報道されたんです。最初に交わした契約が5年ですから、もちろん4年目も務めるつもりでしたが……」

　スポーツ紙上には、阪急、近鉄を優勝に導いた西本幸雄の名前が大きく掲載された。

「球団に確認すると、西本さんを総監督として、僕は監督にとどまるという説明でした。それだと、選手たちは誰の言うことを聞けばいいのかわからない。どちらの顔を見ればいいのかわからない。そんなことでチームをまとめられるはずがない。だから、監督を辞することを決めました」

　こうして、3シーズンにわたる安藤監督時代は幕を閉じることになった。広岡達朗に始まり、西本幸雄に終わる、2人の名将に翻弄された監督人生となった。

「監督としての3年間、僕は選手たちに絶対に無理をさせなかった。選手のコンディションを第一に考えて起用しました。その結果、大きな故障者が出ることもなく、3年間を戦うことができました。これは監督としてのささやかな自慢です」

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