彼女が「うちの実家、寺なんだ」…中島翔哉との海遊びで「自分はプロ失格」と絶望→23歳引退のJリーガーはなぜ“お坊さん”になったか

　静岡県島田市にある林入寺の副住職である五藤（旧姓：梅村）晴貴さんには、元Jリーガーという肩書がある。

　そのプロ生活は右肩脱臼や左ひざ前十字靭帯断裂などケガに泣かされる日々だった。それを乗り越えてシーズン通してピッチに立てたのは2018年のことだったが――その夏、現役生活に区切りをつけようと意識する瞬間が訪れた。

怪我との戦いの中で「プロ失格」と思った1日

「怪我のケアには時間がかかるので、練習には誰よりも早く行っていました。1日だけ、日課にしているケアを軽めにした日がありました。いつも通りプレーできましたが、さぼったのはプロ失格。もう引退しなければいけないと思いました」

　怪我は回復していた。プロ5年間で最も満足のいくパフォーマンスを見せていた。だが、プロ意識を欠いた自分が許せなかった。五藤さんは「プロ選手は24時間、サッカーのことを考えて生活しなければトップレベルで戦えません。そこを目指していたはずなのに自分は体のケアを怠りました。こんな意識でプロとしてお金をいただくことはできないと考えました」と回想した。

マルヤス時代の五藤さん　※本人提供

すべての写真を見る（30枚）

　もう1つ、ユニフォームを脱ぐ決断に至った理由がある。それは、高校時代に描いていたプロ4年目に海外でプレーするというビジョンである。

「3年で花が咲かなかったら引退を考えないといけないと思っていました」

　すでにプロ生活5年目に入っていた五藤さんは迷いなく、サッカーに区切りをつけた。

「やらされたと感じている時点でプロ失格です」

　五藤さんには現役時代、プロ意識の高さを見せつけられた選手がいる。カターレ富山のチームメートで、1学年上の中島翔哉選手である。ポルトガルやトルコなど海外でのプレーを経て、現在は浦和レッズで、過去には日本代表の10番も背負っている。五藤さんは中島選手に最大限の敬意を込めて「化け物」と表現する。

　J2のカターレ富山時代、中島選手は午前のチーム練習を終えると昼食を取って、夜7時頃まで練習していた。監督から「練習をやり過ぎ」と止められるほどだったという。すると、中島選手は五藤さんを海に誘った。

【次ページ】　グラウンド外でもサッカーの話、悪口も言わない