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箱根駅伝“山上りの5区”は実際どれほど過酷なのか? 元陸上部のお笑い芸人が20.8kmを歩いてみた「股関節がヤバい」「壁のような急坂が…」 

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松下慎平

松下慎平Shimpei Matsushita

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posted2024/01/02 11:10

箱根駅伝“山上りの5区”は実際どれほど過酷なのか? 元陸上部のお笑い芸人が20.8kmを歩いてみた「股関節がヤバい」「壁のような急坂が…」<Number Web> photograph by Number Web

箱根駅伝5区の名所のひとつ・大平台のヘアピンカーブで。元長距離ランナーのお笑い芸人・松下慎平が「山上り区間」の踏破に挑んだ

 完全に巻き込み事故じゃないか。そういえば、昨年のこの時期にもM-1グランプリの2回戦で敗退した私に「芸人にとってのM-1とは?」みたいな精神的にこたえる記事を依頼してきたな……。彼が人の心をどこかに置き忘れてきた人間であることを失念していた。昨年は精神、今年は肉体的に私を追い込もうとしているのか。

元長距離ランナーの威信をかけ、いざ“憧れの箱根”へ

 とはいえ、冷静に考えてみるとなかなかおもしろそうな企画ではある。

 芸人としての立場から、こういった“無茶ぶり”は歓迎のクチだ。それにもともと、中学校と高校では陸上部に所属していた。長距離を専門としていた高校時代には、駅伝の県予選で走った経験もある。このときの区間2位だけが、6年間にわたる陸上生活で得た唯一の勲章だった。駅伝への憧れが人並み以上なのは間違いない。

 とはいえ、これまで年明けのテレビ中継は「人間ってこんなに速く走れるのか」と次元の違う世界の出来事のように眺めていた。順天堂大学の今井正人、東洋大学の柏原竜二、青山学院大学の神野大地……。「山の神」と呼ばれたランナーたちの勇姿が浮かぶ。そんな別次元の世界の一端に触れるチャンスが、20年越しにやってきたのだ。これも何かの縁。半分怖いもの見たさで依頼を受けることにした。

 腐っても元アスリート、小中高とサッカーや陸上で鍛え、高校卒業後は海外で騎手になるためにトレーニングもした。同年代のAのように煙草や酒を嗜むこともない。大丈夫。なんとかなる。余裕綽々で山道を歩いて、温泉にでも浸かって帰ろう。慢性的な運動不足にもかかわらず、「僕も一緒に歩くので!」と主張するAの存在が不安要素ではあるが……。

 決行日は12月上旬。箱根の天気は快晴、最高気温も18度と好条件が揃った。

 私とAは朝の7時前に新宿駅で集合し、ロマンスカーで小田原に向かう。本当に上り切れるのかと気をもむ私に対して、Aは多摩川を過ぎたあたりから口を大きく開けて爆睡していた。小田原中継所から芦ノ湖のゴールまで――愚かな中年男性2人による、20.8kmの冒険の幕開けである。

会話を楽しむ余裕があったのは函嶺洞門まで

 時刻は8時45分。スタート地点は、箱根登山鉄道の風祭駅前の「鈴廣かまぼこの里」。いつも小田原中継所で襷を受け渡す選手の後ろにかわいらしい車両が映り込んでいるのが気になっていたが、その正体が引退車両を利用した電車カフェであることを初めて知った。

【次ページ】 真っ先に悲鳴を上げたのは“股関節”だった

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