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「阪神最後の試合は感慨深かった?」「全然!」…虎の歴史で振り返る《“大阪の水”合う人、合わない人》最もフィットしたのはあの“闘将”? 

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江本孟紀

江本孟紀Takenori Emoto

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photograph byJIJI PRESS

posted2023/10/30 11:02

「阪神最後の試合は感慨深かった?」「全然!」…虎の歴史で振り返る《“大阪の水”合う人、合わない人》最もフィットしたのはあの“闘将”?<Number Web> photograph by JIJI PRESS

「関西の人気球団」という特殊な立ち位置もあり、合う・合わないがハッキリでる阪神。気性の荒い闘将・星野仙一にはピッタリだった

 ここまで嫌悪された原因のひとつは、大阪の人と東北の人の性格の違いが大きい。東北の人は感情を内に秘めて口数少なく話すのに対し、大阪の人は表情豊かに感情を出して饒舌に話す人が多い。それが東北の人たちからすると「怖い」と感じてしまうのだ。

 大阪は吉本興業や松竹芸能といったお笑い文化の発信の地である。彼らの芸風は、ときには大きな声を出したり、突然怒って見せたりと、感情豊かな表現を前面に出してお客さんを笑わせる芸風だ。それだけに、星野さんの喜怒哀楽を出した立ち居振る舞いは大阪の人たちにとって心地よく感じたはずだ。

 こんなこともあった。当時、西武に在籍していた渡辺直人がKスタ宮城(現・楽天モバイルパーク宮城)で代打で登場して二塁打で出塁し、その後、決勝のホームを踏んだ。このとき、渡辺に対して楽天ファンが拍手を送ったのだが、星野さんはこれに嚙みついた。

「ここのファンはわからんね。直人が出てきて拍手、打たれて拍手。チームが負けてもいいんだよ。ホンマ腹立つわ」

 このコメントが仙台の楽天ファンの逆鱗に触れた。渡辺は楽天が低迷したころに精神的支柱として働いた功労者である。星野さんが監督になってすぐにDeNAにトレードで放出された際(のちに復帰)、チームメイトだった嶋基宏は悲しみのあまり涙を流し、楽天ファンも嶋同様に悲しんだ。その経緯を知っていたからこそ、仙台のファンは渡辺に声援を送っていたのだが、星野さんにはとうてい理解できるものではなかった。かつての仲間が敵味方に分かれた時点で、情けをかけることなど勝負の世界には必要ないと考えていたのだ。

「オレは最後に胴上げされればいいんだ」

 楽天のチーム創設以来初のリーグ優勝が決まろうとしていた2013年9月下旬、多くの報道陣を前に、星野さんはこんなことを話し始めた。

「仙台の人がオレのことを好きじゃないのはわかっていた。それならそれでいい。オレは最後に胴上げされればいいんだ」

 星野さん自身、「仙台の水が合わない」ことは熟知していた。だが、どんなに批判されても、優勝すれば「手柄はオレのもの」だということを、ほかの誰より星野さん自身がよくわかっていたからこその偽らざる本音だった。

 大阪にかぎらず、その土地の水が合うかどうかは、その人が持つ人柄や性格によるところが大きい。星野さんがすごいのは、たとえ仙台の水が合っていないとわかっていても、批判を一身に受け止めて優勝に邁進した心の強さである。これは真似できるようで、なかなかできないことである。

<「阪神の未来」編に続く>

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