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“朝倉未来を失神させた男”クレベルはなぜ完敗したのか? 金原正徳40歳の“ワンサイド勝利”が偶然ではない理由「寝技でも勝負できる」

posted2023/09/25 12:53

 
“朝倉未来を失神させた男”クレベルはなぜ完敗したのか? 金原正徳40歳の“ワンサイド勝利”が偶然ではない理由「寝技でも勝負できる」<Number Web> photograph by RIZIN FF Susumu Nagao

『RIZIN.44』メインにて、クレベルをパウンドで圧倒する金原正徳

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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RIZIN FF Susumu Nagao

『RIZIN.44』(9月24日)の会場に入ってまず感じたのは、プレスルームの狭さだ。スペースとしては同じさいたまスーパーアリーナで開催された7月大会の半分以下だろう。要は取材陣が少ないのだ。この日は興行ラッシュで他団体の大会が重なっていたが、それにしてもというところ。

 今回のメインイベントはクレベル・コイケvs.金原正徳。前回のメインは朝倉未来のタイトルマッチだったから、注目度に差が出たのは仕方ないのかもしれない。

 金原は40歳のベテラン。RIZINでは初のメイン登場だ。対するクレベルは前RIZINフェザー級王者。実力派対決であり、それは言い換えると“渋いカード”ということになる。分かる人には分かる顔合わせと言えばいいだろうか。だが注目度と選手の実力が比例するわけではない。観客の数で試合の価値が決まるわけでもない。むしろクレベルvs.金原を見た観客は、大満足で会場をあとにしたはずだ。

 クレベルは日系ブラジル人で、出稼ぎのため家族と来日してからブラジリアン柔術を始めた。MMAでも圧倒的な“極め力”を誇り、RIZINに参戦すると7連続一本勝ちでベルトを巻いた。その内の一つが、朝倉未来を三角絞めで失神させた試合だ。

朝倉未来から「メチャクチャ強い」と言われた男

 一方の金原は、それこそ“分かる人には分かる”キャリアを積んできた。『戦極』でベルトを巻き、大晦日に山本“KID”徳郁に勝ったのは2009年。PRIDEが活動休止となり日本の格闘技熱が下がっていた時代だ。世界最高峰のMMAイベントであるUFCに参戦していた時期もあるが、日本での注目度は高くなかった。

 2020年、RIZIN初参戦の試合に敗れると引退を表明。1年8カ月後に復帰するとフェザー級に階級を上げて3連勝を飾り、クレベルとの対戦が決まった。クレベルは前回の試合、鈴木千裕との王座防衛戦で計量オーバー。タイトルを剥奪されている。しかし試合ではアームバーを極めており“クレベルに隙なし”の印象を残した(公式記録は無効試合)。RIZINでの敗北は、米メジャー団体ベラトールで2階級を制覇したパトリシオ・ピットブル戦だけだった。日本人選手に最後に負けたのは、14年も前のことだ。

 クレベルの寝技は絶対。グラウンドに持ち込まれたら最後。誰もがそう信じて疑わないだけの強さをクレベルは見せてきた。しかし金原は言った。

「クレベルにグラップリング(組み技)で対抗できるのは僕しかいない」

 金原は日本格闘技界の“裏番長”とも“影の王者”とも呼ばれる。朝倉未来が「金原さんはメチャクチャ強い」と評したその実力は、クレベルという強敵を得て全面解放された。“分かる人には分かる”ではなく、誰がどう見ても分かる強さ。見事なまでのワンサイドゲームだったのだ。

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