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“朝倉未来を失神させた男”クレベルはなぜ完敗したのか? 金原正徳40歳の“ワンサイド勝利”が偶然ではない理由「寝技でも勝負できる」 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byRIZIN FF Susumu Nagao

posted2023/09/25 12:53

“朝倉未来を失神させた男”クレベルはなぜ完敗したのか? 金原正徳40歳の“ワンサイド勝利”が偶然ではない理由「寝技でも勝負できる」<Number Web> photograph by RIZIN FF Susumu Nagao

『RIZIN.44』メインにて、クレベルをパウンドで圧倒する金原正徳

「判定3-0」なぜワンサイドゲームになった?

 序盤からパンチを当て、クレベルが組んできてもテイクダウンを許さない。逆にグラウンドで金原が上になり、パンチを落としていく。後手に回ったクレベルが距離を詰めてくるとカウンターでタックル。金原コールも起こる中、RIZINフェザー級最強の寝技師をグラウンドで防戦一方にさせた。最終3ラウンドもクレベルがどれだけ動こうがトップキープ。判定3-0、金原の完勝だった。戦前から金原勝利の予想も少なくなかったが、しかしここまで差がつくとは。

 今回の試合内容が、そのまま金原とクレベルの実力差というわけではないだろう。序盤で勝負の天秤がほんの少しだけ傾いて、それがどんどん大きくなったように見えた。それだけ先手を取ることが大事だったとも言える。青木真也の表現を借りると「実力通りのアップセット」を成し遂げた金原は、勝負の綾をこう振り返っている。 

「1ラウンド、先に(打撃を)当てたので寝技にもいけました。一番(大事なの)はクレベルにビビらないこと。それは入場の時も自分に言い聞かせてました。計量の時もずっと相手の顔を見て“ここに当てるんだ”と」

クレベル相手でも「寝技で勝負」した理由

 最も警戒していたのは、寝技よりもクレベルの打撃とレスリングだったそうだ。これはMMAだ。寝技に入った時の体勢、ダメージの有無も試合の流れに大きく影響する。金原はクレベルの寝技だけを切り取って考えるのではなく、寝技にさせないことでもなく、そこに至る流れを考えた。流れ次第では寝技でも勝負できる、と。寝技を怖がらなかったからこそ打撃を当てることができたとも言えるだろう。 

「実際に組んでみて、寝技でも勝負できるなと思いました」

 スタンドで流れを掴んだから寝技でも勝負できると感じた。相手がクレベルだからといって、寝技勝負を避けるという選択肢はなかったともいう。

「相手の強いところで勝負しないに越したことはないんですけど。大事なのは自分の強いところで勝負すること。相手の強みが打撃だろうが寝技だろうが、自分が強いのはどこなんだと」

 金原も寝技が得意だから寝技で勝負した。闇雲な寝技勝負ではない。その前段階、スタンドの打撃から優位な状況を作った上での勝負だ。それが“MMAの寝技”というものなのだろう。

 寝技において、特別な“クレベル対策”をしたということでもない。

「誰々が相手だからここを強化しますとかじゃない。MMAをコツコツやってきたのが出たんだと思います。クレベル攻略法? みなさん柔術をやりましょう。グラップリング、MMAをたくさんやりましょう」

 金原にとっては“寝技の強化”は日々の取り組みであって特別なクレベル対策ではないのだ。おそらく強豪ストライカーと対戦することになってもことさらに“打撃対策”を立てることはない。打撃も寝技もレスリングもすべて連動しているのがMMAであって、急に個別の技術で“対策”を立てるようでは遅いのだ。

【次ページ】 敗れたクレベル「僕はまだスーパーサイヤ人じゃないから」

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