Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER

井上尚弥のカウンターは「まるで将棋のように…」鉄壁ボクサー川島郭志が語る“ナオヤの超才能”「実はディフェンス、ピカイチですよ」

posted2023/07/23 17:02

 
井上尚弥のカウンターは「まるで将棋のように…」鉄壁ボクサー川島郭志が語る“ナオヤの超才能”「実はディフェンス、ピカイチですよ」<Number Web> photograph by Naoya Sanuki/Kiichi Matsumoto

井上尚弥の衝撃KO劇を導く戦慄のカウンターについて、川島敦志に解説してもらった

text by

赤坂英一

赤坂英一Eiichi Akasaka

PROFILE

photograph by

Naoya Sanuki/Kiichi Matsumoto

将棋の如く先を読み、相手の微細なクセを捉え、精緻な距離とタイミングで放つ。華麗な防御で“アンタッチャブル”と賞された元王者が説く井上のカウンターは、高度なディフェンス技術と表裏をなす、肉体と心理のアートと言えるものだった。井上尚弥の“飛び抜けた才能”に焦点を当てた『川島郭志「何手も先を読み通す目に見えない力」』(Number1053号/2022年6月16日発売)を特別に全文掲載します。

 川島郭志は1994年、WBC世界ジュニアバンタム級王者ホセ・ルイス・ブエノをカウンターの左フックでダウンさせ、12回判定で初のベルトを勝ち取った。その川島はいま、井上尚弥が勝負どころで放つカウンターをこのように表現している。

「井上は自分の中にカウンターのタイミングを持ってるんですよ。相手のパンチが、あっ、来た!っていう瞬間に、自分のパンチを合わせられる咄嗟の判断力、その間合いに踏み込める勇気。そういう生まれ持った資質に加えて、ふだんの練習で相手に合わせる訓練を積んでいる。だから反射的に強いカウンターを打てるわけです」

実は井上も基本的にはディフェンスのボクサー

 井上にはもうひとつ、防御のテクニックで一時代を築き、「アンタッチャブル」と呼ばれた川島だからこそ指摘できる“隠れた特長”がある。「実は井上も基本的にはディフェンスのボクサー」というのだ。

「見た目は攻撃的なスタイルに隠れてますけど、非常にディフェンスのしっかりしたファイターです。実際、前回のドネア戦で右目の上をカットしたぐらいで、あれだけ傷のない顔をしてるんですから。自分の間合いと立ち位置をよく知っていて、パンチをもらわない位置に移動する勘のよさが素晴らしい。そこからまた、自分がパンチを打てる位置へ飛び込む速さと勇気もある」

将棋のように何手か先を読んで戦ってる

 防御を固めた「自分の位置」から強烈なカウンターを放つのが井上のスタイル。それを遺憾なく発揮した好例が2016年12月30日、WBO世界スーパーフライ級王座4度目の防衛戦。6回にカウンターの左フックでTKO勝ちした河野公平戦だ。

「河野はガードを上げて、どんどん前へ出て来るタイプなんですよね。とにかく攻めていくしかなかった彼に対して、井上はパンチの軌道がしっかりと見えている。攻められた時の頭の動かし方が上手い。6回は左フックを一発だけもらってますが、右は完全に読み切ってます。そこで井上がすぐもらわない位置に移動するので、河野も追いかけていかざるを得ません。

 そういうパターンを2回ぐらいやって、3回目に井上の左フックが河野の顔に当たった。相手がこう来たらこう、こう来たらこうと、井上は将棋のように何手か先を読んで戦ってるんです。倒した時のカウンターはあらかじめ狙っていたのと、反射的に出たのと、両方じゃないでしょうか」

【次ページ】 WBSS準決勝は緻密な戦法で圧勝した

1 2 3 NEXT
川島郭志
井上尚弥
河野公平
エマヌエル・ロドリゲス
ジェイソン・マロニー

ボクシングの前後の記事

ページトップ