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井上尚弥のカウンターは「まるで将棋のように…」鉄壁ボクサー川島郭志が語る“ナオヤの超才能”「実はディフェンス、ピカイチですよ」 

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赤坂英一

赤坂英一Eiichi Akasaka

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photograph byNaoya Sanuki/Kiichi Matsumoto

posted2023/07/23 17:02

井上尚弥のカウンターは「まるで将棋のように…」鉄壁ボクサー川島郭志が語る“ナオヤの超才能”「実はディフェンス、ピカイチですよ」<Number Web> photograph by Naoya Sanuki/Kiichi Matsumoto

井上尚弥の衝撃KO劇を導く戦慄のカウンターについて、川島敦志に解説してもらった

WBSS準決勝は緻密な戦法で圧勝した

 常に相手の動きの先を読み、カウンターを狙える状況に追い込んでいく。その緻密な戦法で圧勝したのが、階級をバンタム級に上げて臨んだ'19年5月18日、IBFの世界王座を賭けた、WBSS準決勝のエマヌエル・ロドリゲス戦。この試合は序盤の2回、TKO勝ちで決着した。

「1回、ゴングがカーンと鳴ったらロドリゲスが前に出てきて、やはり最初から来たなと思った。井上はバンタムに上げてからパワーアップしていて、ロドリゲスがディフェンシブに戦っても中盤か終盤には井上に捕まる可能性が高い。ロドリゲスもカウンターは上手いから序盤でのKOを狙って積極的に仕掛けたんですよ。1回は井上に圧をかけてロープ際に詰めてますよね。

 しかし、井上もしっかりとロドリゲスのクセを読んでいました。彼は左アッパーを打つ時、右のガードが開くんです。右腕が前にあれば顔をカバーできるのに、後ろにいくからそれができない。そういうクセは、井上もビデオを見ていてわかっていたんでしょう。そこを見極めて、ロドリゲスが2回に左ボディーを打とうとすると、その力を利用して、バーン! と左フックを顔面に当てている。あの一発は狙い澄ましていたというより、コンビネーションの中の一発がうまいこと当たったという印象です」

「ボクシングの教科書」のような一戦とは

 '20年10月31日のWBA&IBF世界戦は、ジェイソン・マロニーに鮮やかなカウンターを炸裂させてKO勝ち。この井上の戦い方を文字通り「ボクシングの教科書のようだった」と川島は絶賛する。

「この頃になると、井上はモンスターならではのオーラを漂わせていて、マロニーもなかなか前に出てきませんでしたね。そういう相手に、井上は非常にシンプルで基本に忠実なボクシングをしている。離れてる時はジャブを繰り出し、接近戦になったらアッパーにボディブロー。攻撃、攻撃、攻撃ときてディフェンスを挟み、また攻撃と繰り返すリズムがすごく速い。立ち位置が非常によく、視野が広くて、相手の動きがよく見えてるんですよ。そうやってどんどんどんどん、マロニーが自分から攻めなきゃいけない状況に追い込んでいった」

 そして、7回、鮮やかな右ショートストレートのカウンターでマロニーをリングに沈めた。

「あのカウンター、井上は狙ったところに完璧に決めましたね。井上が攻め続けて、最後は追い込まれたマロニーが苦し紛れにワンツーで来たところにドーン! まさに作戦通り。いまひとつ腰の入ってない体勢から出たパンチではあるんですけど、肩とスナップの強さでマロニーを倒している。改めて、バンタムに上げた井上のパワーの凄さを感じさせたカウンターでした」

 ただし、父・真吾トレーナーは「拳1個か2個分距離があったらもっと威力のある一発になっていたはず」と証言している。

【次ページ】 いまは攻撃主体だけど、アウトボクサーにもなれたはず

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