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<真相>「このまま(負けっぱなし)じゃ量産に戻れません」ホンダが“新骨格”導入で見せたエンジニア魂《王者フェルスタッペンも感動》

posted2022/03/20 06:00

 
<真相>「このまま(負けっぱなし)じゃ量産に戻れません」ホンダが“新骨格”導入で見せたエンジニア魂《王者フェルスタッペンも感動》<Number Web> photograph by Masahiro Owari

21年の最終戦でフェルスタッペンが戴冠した後、最後の記念写真に収まったホンダのスタッフたち

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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Masahiro Owari

 2021年シーズンは、多くの日本のF1ファンにとって、特別な1年だったに違いない。その大きな理由はやはりホンダの存在であろう。

 ホンダは21年限りでF1の表舞台から姿を消した。これまでもホンダは参戦と休止、あるいは撤退を繰り返してきたが、F1を去る1年以上も前に撤退を発表して、最後のシーズンに臨んだことはこれまでなかった。いわば、21年はホンダにとって、「これが最後の1年」と認識したうえで、初めて挑んだF1となった。そのことが、ホンダのスタッフだけでなく、日本人の胸を熱くしていたように思う。

 ホンダがF1ラストイヤーに並々ならぬ思いで臨んでいたことは、「新骨格」と呼ばれた新設計のパワーユニットを投入したことでもわかる。当初、この新骨格のパワーユニットは22年に投入される予定で開発が進められていた。しかし、21年限りでの参戦終了という決定を受け、本来であればお蔵入りとなるはずだった。

 ところが、ホンダは計画を変更し、1年前倒しで21年に投入してきた。その決定にだれよりも驚き、喜んだのがマックス・フェルスタッペン(レッドブル)だった。

「ビックリしたよ。普通なら『我々は来年辞めるから、今年はもう何も投資はしない』と言われても仕方がないのに、ホンダは逆に最後まで全力で開発し、共にレースを戦ってくれた。それが本当にうれしかった」

目的はメルセデスを上回ること

 ホンダがそこまでして新骨格のパワーユニットをラストシーズンに投入してきたのには理由があった。新骨格のパワーユニットは、メルセデスを上回ることを目的に開発されたものだったからである。それを出さずしてF1を去ることは、ホンダのエンジニア魂が許さなかった。ホンダのパワーユニット開発責任者である浅木泰昭は「このまま新骨格を出さずに終えることはできません」と、八郷隆弘社長(当時)に直談判して新骨格投入を実現させた。

 F1ラストイヤーとなったホンダの活躍に熱い眼差しを送っていたのは、ホンダのF1を担当するエンジニアたちだけではなかった。ホンダが新骨格の投入に至るまでには、ホンダF1の開発拠点であるHRD Sakuraだけでなく、航空エンジン部門など、HRD Sakura以外のさまざまな研究所のサポートがあった。新骨格は本田技術研究所の英知を結集して、最後の1年を戦うために送り出された特別なパワーユニットだったのである。

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