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「バロンドールになぜメッシ?」日本で唯一の投票委員が違和感を抱いた賞の価値《選考基準はどこに?》 

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田村修一

田村修一Shuichi Tamura

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posted2021/12/04 17:01

「バロンドールになぜメッシ?」日本で唯一の投票委員が違和感を抱いた賞の価値《選考基準はどこに?》<Number Web> photograph by Getty Images

7度目の授賞式のスピーチで、メッシは2位となったレバンドフスキを気遣うコメントを発した

 フェランの感じた不安は現実のものとなった。ジャーナリストが示す価値観と代表チーム監督とキャプテンが示す価値観。ときに両者に乖離が生じ、全体の3分の1でしかないジャーナリストの価値観が押し切られる。たしかにバロンドールの知名度も一気にワールドワイドに広まったが、本来の意義を失ってまでFIFAと一緒に続ける意味はないと感じたから、6年間の契約期間が過ぎた後に更新はおこなわなかった。

 では、バロンドールは、FIFAと袂を分かって独自の価値を再び取り戻したのだろうか。そして今年や一昨年のメッシの受賞は、バロンドールの価値を体現したものといえるのか……。

 筆者はバロンドールが世界最優秀選手賞となった2007年から、投票委員のひとりとして毎年投票に参加している。最初の3年間の資料は手元にないが、2007年はカカ、2008年はクリスティアーノ・ロナウド、2009年はメッシを1位にしたと記憶している。2010年以降は、メッシとロナウドを1位にしたのはそれぞれ2回で、他の年は別の選手を1位に選んだ。ふたりが突出していることに異存はないが、かといってふたりだけでバロンドールを独占するほどのものであるのか、というのがFIFAバロンドール時代から感じていた素朴な疑問だった。

最高権威の賞だからこそ…

 今日、バロンドールの権威と知名度はかつてないほどに高まっている。2001年に22歳という若さで受賞したマイケル・オーウェンは、監督のジェラール・ウリエから説明を受けるまでバロンドールがどんな価値を持つのか知らなかった。今ならその辺のサッカー少年たちでも、バロンドールの何たるかを分かっているだろう。ところが独自の価値を取り戻したはずのバロンドールが、僅差とはいえ2回続けてメッシを1位に選んだ。この事実が筆者には衝撃的だった。

 2011年に設立されたUEFA欧州最優秀選手賞では、メッシの受賞は2回、ロナウドの受賞は3回のみで、残りの年はいずれもバロンドールでふたりに敗れた選手たち――イニエスタやフランク・リベリー、ファンダイク、レバンドフスキ、ジョルジーニョらが選ばれている。バロンドールの価値観を体現するのはもはやバロンドール自身ではなく、別の賞であると感じてしまうのは、筆者の思い込みにすぎないのだろうか……。

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