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落合博満「ドラ1は野本でいってくれ」ドラフト前日に落合と中日スカウト陣が異例の内紛…13年前ドラゴンズが大田泰示の指名を見送るまで 

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鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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photograph bySankei Shimbun

posted2021/10/23 17:04

落合博満「ドラ1は野本でいってくれ」ドラフト前日に落合と中日スカウト陣が異例の内紛…13年前ドラゴンズが大田泰示の指名を見送るまで<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

2008年のドラフト会議。楽天・野村克也監督と談笑する中日・落合博満監督

「いや、何と言えばいいのか……。清原も松井も福留も、これというバッターが出てきたとき、必ず入札していたのは我が中日だけでした。そういう意味で、ずっと大田君を、と思ってきました。ただ、監督は即戦力が欲しいということで……。そう言われれば我々はどうすることもできませんから」

 中田は落合とスカウトとの間に乖離があったことを口にした。球団内の溝を外部に曝すことになるのはわかっていたが、それでも黙っていることはできなかった。ずっと抱えてきた感情が限界まで膨らみ、叫びになった。

「球団には100億円の埋蔵金がある」は昔の話

 そして、憂いはこの先も消えないということが中田には薄々わかっていた。球界も、中日という球団も、すでに転換期の真っ只中にいた。

「球団の金庫には100億円の埋蔵金がある」

 かつて球団の内部ではそう囁かれていた時代があった。

 中部圏で圧倒的なシェアと販売部数を誇る親会社の財力は、スカウトも含めた編成面での優位性になっていた。スカウトたちがアマチュア球界の関係者に持参する手土産ひとつとっても、中日は他球団と差別化することができた。相手側が目を丸くしているところから話を始めることができた。

 だが、インターネットの普及によって新聞業界は過渡期を迎え、埋蔵金はいつしか消えていた。星野仙一が監督だった時代のように、巨人の向こうを張って編成補強費を使った日々は、もはや昔話だった。

 そもそも、経営難に陥った近鉄がオリックスと合併したことから始まった2004年の球界再編騒動以降、プロ野球の球団は親会社の広告塔という位置づけから外れ、単体での採算と経営の健全化が求められるようになっていた。

 つまり、球団に求められるのは勝利だけではなくなってきていた。確かに落合は中日を常勝チームにした。だが、球団まで目先の勝負にとらわれていいものか……。そもそも補強費が先細るなか、どうやって常勝を維持していくというのか。

 中田の憂慮はそこまで根深いものになっていた。<#1、#2から続く>

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