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鬼才・ビエルサが負けても、批判されてもスタイルを変えないワケ【自分の信じているものと共に死ぬ】 

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赤石晋一郎

赤石晋一郎Shinichiro Akaishi

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posted2021/02/20 11:00

鬼才・ビエルサが負けても、批判されてもスタイルを変えないワケ【自分の信じているものと共に死ぬ】<Number Web> photograph by Getty Images

マンUに6対2と大敗したが、そんなことで自らのスタイルを変えるビエルサではない

 リーズは己のプレースタイルを貫き、ボールをポゼッションし、攻撃構築をし続けた。1人で攻撃を完結できるようなスーパーな選手がリーズにはいないので、複数人での攻撃が必要となる。“絶え間ない”攻撃という哲学を実践するためにはカウンターの餌食になることをある部分では覚悟しながら攻撃構築を続ける必要がある。リーズはどんなにスコア差が開いても攻め続けた。結果は大敗だったが、彼らは彼ららしい試合を演じたといえるだろう。

「偶然の結果を過大評価してはいけません」

 アスレチック・ビルバオを指揮していた時代、ビエルサは記者会見でこう語ったことがある。彼は常に結果に左右されてはいけないと語り続けているのだ。

〈もしよい結果が出なかったとしても、それまでの過程がよいものであるとしたら、評価をされなかったとしても心配する必要はありません。不平等は常にあるものです。偶然の結果を過大評価してはいけません。

 近道は目標に連れて行ってはくれません。いつも選手には花壇の話をします。花壇の反対側に渡ろうとするとき、近道をすれば反対側に早く着きますが花を踏みつぶしてしまいます。反対に遠回りをして縁に沿って進む者は時間がかかりますが花を駄目にすることはありません。根拠ある結果が大切だと私は信じています〉

 マンチェスター・ユナイテッド戦後にもビエルサは「敗北と勝利から結論を導き出すべきではありません。勝った負けたという結果からすべてを分析しようとして、この短い時間でこんなにも早く意見を変えるということは恥ずべきことです」と語っている。前節のニューカッスル戦で5-2と大勝したときにリーズはメディアから大いに賞賛を受けたにも関わらず、わずか4日後のマンチェスター・ユナイテッド戦に大敗すると批判に転じるメディアの軽薄さに対して、彼なりの言葉で釘を刺したのだ。

自分の信じているものと共に死ぬか

 1-4とリードされ前半を終わり、後半さらに攻撃に出たことで計6点を取られたリーズを批判するメディアに対して、こうも警鐘を鳴らすのだ。

「ライバルが優勢になったとしても、イングリッシュ・フットボールは、更に改善しようと試みることを評価する数少ない国の1つであると思います。ただ明らかに、もはやそうではないのでしょう。観客もそのように考え始め、最終的にそれは英国のサッカーに影響を与え始めると思います」

 自分の信じるサッカーを丁寧に続けていくことでリーズは成長していくと信じる。たとえ結果が伴わないとしても、ジャーナリストが口にする「スタイルの変更」をするつもりはビエルサには毛頭ないのだ。

「結果に左右されない姿勢がマルセロの凄いところです。自分のサッカーと心中する覚悟で、リーズを指導しているという姿勢が会見の言葉から滲み出ていました。ただ、誤解して欲しくないのですが、マルセロは結果よりスタイルを重視しているという訳ではありません。マルセロ自身も会見で『多くの影響力ある人が言ってますが、勝つための最良の方法は”良いプレーをすること”です』と言及しています。彼は良いプレーをするために作り上げた自らのプレースタイルを信じているのです。

 アルゼンチンの格言に『自分の信じているものと共に死ぬか、生き残るために自分を変えるか』という言葉があります。多くの人は生きるために自分を変える。サッカー監督でも、自チームの負けが込むと守備的な戦術に切り替えるという例も多くあります。でも、マルセロは違うのです」(荒川)

 自らの哲学と心中する覚悟を見せ続ける所作が、ビエルサがサッカー界で尊敬を集め「偉人」と評される所以なのであろう。

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荒川友康(あらかわ・ゆうこう)

サッカー指導者。アルゼンチンで複数のチームや滝川第二高校での指導を経て、ジェフ千葉・育成コーチ、京都サンガ・トップチームコーチ、FC町田ゼルビアトップチームコーチなどを歴任。ビエルサのみならず、Jリーグでもアルディレスなどの名将の元で働く。アルゼンチンサッカー協会認定のS級ライセンスを所持。FCトレーロス所属。

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