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2年生エースを投げさせない明石商。
狭間監督の情熱と冷静な逆算。 

text by

中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byHideki Sugiyama

posted2019/08/18 15:30

2年生エースを投げさせない明石商。狭間監督の情熱と冷静な逆算。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

ベンチ前での身振り手振りが印象的な明石商・狭間監督。冷静な投手起用で強打の八戸学院光星を退け、ベスト4へ進出した。

高校野球で「先を見る」難しさ。

 一度ならず、二度までも中森の先発を回避した狭間は、その意図をこう説明する。

「僕は一戦一戦と思ってますよ。でも、選手が日本一を目指すと言うんでね。そこは逆算しないといけない。無理をさせるときはさせますよ。でも、中森はまだ2年生なんでね。体力的にも無理だと思います」

 今大会から準々決勝後、準決勝後と休養日がそれぞれ中1日に増えた。それでも3連投は厳しいと判断したのだ。

 高校野球の世界では、金科玉条のように「先を見たらいけない」と語られる。それは負けたら終わりのトーナメントにおける鉄則でもあるのだろうが、見方を変えれば、エースを使わずして負けることをただ恐れているようにも感じられる。

「勝利」と「選手の体」の両立。

 狭間に「先を見たから負けた」と言われることは怖くはないのかと問うと、きっぱり否定した。

「ぜんぜん怖くない。うちの娘が中森君を投げさせないで負けたら監督のせいやって書かれるよって言ってましたけど、俺のせいでいいよ、と」

 一戦必勝が主流の高校野球の世界で、これだけ明確に長期的なプランを持ち采配を振るえる監督はそうはいない。

 頂点まで、残り2試合。エースの中森は、ここまで2試合で11回と1/3しか投げていない。近年、故障しているわけでもないのに明らかに抜きんでた投手をこれだけ温存したまま準決勝まで勝ち進んだ例は、ほぼないのではないか。

 高校野球における投球過多の問題が取り上げられるたびに「勝利」か「選手の体」かという二元論で論じられることが多い。だが、明石商の快進撃は、その2つが両立できることを証明している。

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