“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
学生服姿の少年が見せた悔しい顔。
9年後の昌子源は「物凄く、成長した」。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakuya Sugiyama
posted2019/03/31 10:30
ロシアW杯以来となる代表のピッチに戻ってきた昌子。守備陣を統率する存在として期待したい。
今も忘れない苦い思い出。
筆者は「堂々と自分が持っているプレーをすれば良い」と送り出したが、この合宿において、彼はまったく自分を出せないまま終わってしまった。
合宿最終日にあったヴィッセル神戸との練習試合。その会場は、まだホームズスタジアム神戸という名称だったころのノエビアスタジアム神戸であった。当時を振り返ってみる。
4-4-2のCBとして出場した昌子だったが、立ち上がりから縮こまったプレーをしているように見えた。時折見せる空中戦やフィジカルコンタクトではプロ相手に張り合ってみせたものの、当時所属していたFW大久保嘉人の動きを捕まえられず、何度も振り切られるシーンが続いた。そのあとも細かいミスが目立ち、失点にも絡んだ。試合は0-1の敗戦。はっきり言うと、散々な出来だった。
試合後、学生服姿の昌子は落ち込んだ表情をしていた。宇佐美や酒井高徳などの主軸選手に記者が集まる中、誰にも呼び止められないまま、ミックスゾーンの出口付近に待っていた筆者の下まで歩いてきた。
「この経験を大事にします」
「今日の僕……正直、どうでした?」
筆者は正直に答えた。
「良くなかった。いつもの源ではなかった」
やっぱりかと言う表情を浮かべ、こう口を開いた。
「初めての代表なので、物凄く緊張しましたし、まったく自分を出せませんでした。普段なら対応できるとこに行けなかったり、思うように身体が動かなかった。悔しいというか、情けないです……」
しばらく彼と会話をした後、筆者は伝えた。
「最終的にはA代表に入ればいいんだよ」
すると、昌子は力強く返した。
「はい。この経験を大事にします」
最後は笑顔を見せて、扉の向こうにあるバスに乗り込んでいった。