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ヤクルト復活を支えるキーマン。
「一塁・坂口智隆」の存在感。

posted2018/04/23 11:30

 
ヤクルト復活を支えるキーマン。「一塁・坂口智隆」の存在感。<Number Web> photograph by Kyodo News

昨季は136試合に出場しチームトップの打率.290を記録。前向きな性格と実力でチームに欠かせない存在となっている。

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浜本卓也(日刊スポーツ)

浜本卓也(日刊スポーツ)Takuya Hamamoto

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 4月に入り、新社会人の姿を見かけることが多くなった。街は真新しいスーツを身にまとったフレッシュな顔であふれている。

 ただ、悲しいかな、全員がやりたい仕事をすぐにできるとは限らないのが現実だろう。希望とは違う部署に配属されたり、まったく経験したことのない業務を託されたり。新入社員だろうが、入社10年目の社員だろうが、そんな社会の“壁”にぶつかる日を誰もが経験すると思う。記者も入社後、初期配属はまったく想定していなかった「レース部」。そこで競馬や競輪を担当した。今でこそ両競技の魅力を知って心を奪われているが、最初は人生であまりかかわったことがなかった競技の担当となったことに戸惑い、不安を覚えた。

 ヤクルト坂口智隆はプロ16年目の今春、中学以来となる「一塁挑戦」を託された。外野手としてゴールデングラブ賞4度の名手にとって、想定外の新たな“仕事”だった。内野手が外野にも取り組むケースはあっても、その逆は多くない。外野という“部署”で競争を勝ち抜いて結果を残してきた経験豊富な“社員”が、プロで未経験の内野にも着手する。その大変さと気苦労は、想像に難くない。

「どこをするにしても必死にやらないと」

 動揺、困惑は当然あったと思う。だが、坂口は一切おもてに出さなかった。いや、本当になかったのかもしれない。常に、前向き。一塁挑戦が決定した直後には「一塁は一番球に触れることが多いポジション。難しい。でも僕自身、立場は分かっているつもりです。全てチャンスと思っています。どこをするにしても必死にやらないと。全てに気合入れてやります」と、りりしい表情で決意を示した。

 すぐに一塁手用のグラブを準備。「試合に出れば、チームや投手に迷惑をかけたくないですから」と、シートノックでは外野で打球を追ってから、一塁の守備位置についた。ノックの順番を待つ間も、他の一塁手のプレーを目で追った。現役時代は名内野手と称された宮本慎也ヘッドコーチらから、内野手の動きを学んだ。自身の守備練習の動画を撮影し、客観的にチェックを繰り返した。「(一塁を)やったことがないのでね。100点満点でできるとは思っていないですけど、せめて普通に貢献できるぐらいには、という思いで毎日練習しています」。決して片手間ではない。情熱を持って、外野と内野の両方と真剣に向き合う日々を重ねていった。

【次ページ】 畠山離脱のピンチを救う殊勲の打撃。

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