「対戦相手のチームのGKを分析しろ」

「常に試合をやっているチーム、対戦相手のチームのGKを分析しろ」

　自分が関わっていない試合であっても、自チーム、敵チーム、それ以外のチームのGKを、出来ることならばアップの段階からも観察する。

「『周りの選手のいいところを盗め』と言い続けました。ある試合で凄くディフレクションの手の使い方が上手い選手がいて、『あいつ見て、何か感じない？』と言ったら、その選手について『あ、こうやって手を使うんですね』って言って見ていたんです。それでその次の週に練習したときに、『この間のGKのイメージを持ってやってみて』と言ったら、いとも簡単にやるんですよ。それで次の試合でそれを実戦でうまくやるんですよ」

　伊藤のアドバイスに対し、志村は予想以上の吸収力を見せた。彼が持つハイスペックなGKの能力の中には、“観察力”という重要な要素が存在していた。そして、高2のインターハイで志村は全国制覇を成し遂げたチームの絶対的守護神となった。決勝戦の流通経済大柏戦で、神がかったスーパーセーブを連発したのだ。

高校ナンバーワンの称号を手にプロの世界へ。

　その試合を取材した筆者が一番インパクトを受けたのは、62分に流通経済大柏が鮮やかなパス回しから、FWが志村と1対1になった瞬間だった。志村はピンチにも動じず一瞬のスピードで間合いを詰めてから、至近距離からの相手の強烈なシュートに反応。華麗なジャンプから左手一本でゴールの外にはじき出した。このビッグプレーが試合の流れを一変させ、市立船橋は4－2の勝利を収めた。

「あの試合の志村は凄かった。2失点したけど、あいつはそれ以上に相手のビッグチャンスを何度も止めた。ベンチから見ていて『もう無理だ』と思ったボールも止めていた。あれを見て、『これで変わるな』と思ったら、劇的に成長した。自信ってここまで人を変えるのかと思った」

　伊藤も舌を巻く成長を見せた志村は、高3になると“高校ナンバーワンGK”としてさらにスケールを増し、磐田への加入が決まった。

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