プロ野球亭日乗BACK NUMBER
ソフトバンクとヤクルトの「差」は?
相手を見て“変わり身”を見せる力。
posted2015/10/26 14:00
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
Nanae Suzuki
勝負の鉄則は先手必勝。これは当たり前のことだが、ひと昔前の日本シリーズは第2戦必勝主義というのがあった。
今のようにシーズン中にセ、パ両リーグの交流戦もなく、相手チームの生データがまったくない中で手探りの短期決戦。そのため初戦は勝負を捨ててもデータ収集を行い、その後の戦いの主導権を握ろうという考えだ。
もちろん交流戦で生データが収集できるようになった今でも、シリーズはシリーズでのデータ収集が大事な要素であるのに変わりはない。ただ、昔ほど絶対的にデータ量が不足していることはないので、1試合を捨てるほど情報収集に価値はなくなってきているのも確かである。
現在のシリーズの鉄則は、やはり勝負の原点に戻った先手必勝。そしてそのためには交流戦などで収集したデータを基に、後はいかに戦いの中で新しいデータを集めて、変わり身を見せられるか。それが勝負を決する大きな分岐点になる訳である。
予想と違う相手投手の姿に困惑したヤクルト。
「思っていたのとちょっと違ったね」
シリーズ第1戦の試合後のヤクルト・杉村繁打撃コーチのコメントだった。
ソフトバンク先発の武田翔太に完投を許し、初戦を2-4で落とした。その相手エースのピッチングについてだった。
「もっとカーブが多いイメージだったけど、真っ直ぐが多かった。少しスライドする“真っスラ”も良かったし、ボールに思った以上に角度もあって手こずったな」
初回1死から2番の川端慎吾が中前安打、2死後に4番の畠山和洋の右前安打が飛び出して一、三塁としたが、雄平がニゴロに倒れていきなりのチャンスを潰した。その後は3回に四球を選んだがこの走者も併殺で失うと、2回から8回まで6イニングで3者凡退が続いた。9回に畠山の2ランで一矢は報いたが、まったく手も足も出ない完敗だったのである。
「低めを捨てて高め狙いということで、みんな高めのボールにバットが出ていたと思う」
こう語るのは第1打席の中飛から4打席すべてフライアウトに倒れた3番の山田哲人内野手だ。
カーブが頭にあるから、角度のある真っ直ぐに顎が上がってどうしてもバットが下から出る。回を追っても、カーブのイメージを捨てきれずに後手後手に回った。それは山田だけでなく、この日のヤクルトのほぼ全打者にいえることだった。