野球のぼせもんBACK NUMBER
“そこまでやるか!?”SB工藤野球。
痛恨のダブルプレーすら戦略の内。
posted2015/10/26 11:40
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
Nanae Suzuki
野球は生き物だ。特に日本シリーズのような短期決戦では、たった1つのプレーで勝利の女神を味方につけられることもあれば、はたまた敵に回してしまうこともある。わずかな隙も許されない。
ホークスは本拠地ヤフオクドームでの1、2戦を連勝した。
強い。
圧倒的に強かった。
大方の下馬評どおりとはいえ、ホークスの良さばかりが際立っていた。
スコア以上の力量差を印象付けていたホークス。
自慢の強力打線は一発攻勢だ。初戦は松田宣浩、第2戦では李大浩に先制ホームランが飛び出して試合の主導権を握れば、投げてはシーズン13勝の武田翔太(初戦)、同9勝0敗のバンデンハーク(第2戦)が先発で期待どおりに快投した。第1戦4-2、第2戦4-0だったが、スコア以上に力量差を印象付けている。
もともと「パ高セ低」などと言われて久しいプロ野球。そのパ・リーグで90勝したホークスである。
だが単に、打った、投げたという試合ではなかった。
そこまでやるか!
スワローズからすればそんな言葉も言いたくなるほど、ホークスの野球はしたたかだ。一見すればボーンヘッドにしか映らないプレーもじつは戦略のうち。
第1戦の8回裏、明石健志が試みたプッシュバントはまさしくそれだった。
失敗に終わっても「エサ撒き」と割り切る余裕。
結果だけを見れば、一塁手がそのままキャッチして痛恨のダブルプレー。冒頭で書いたように、このようなプレーが相手に流れを渡しかねないし、実際に直後の9回表には4番畠山和洋に反撃の2ランを食らっている。
「まぁ、普通に転がせばよかったかもしれないですけどね」
第2戦を前に、明石に声を掛けると含み笑いを浮かべてそう話した。
「でも、あれでエサを撒くことができました。次から内野手が少しだけでも前に出てくるでしょう。そうなれば、ヒットゾーンが広がるんで」
にやりと笑った。
ホークスは何を仕掛けてくるか分からない……。スワローズに恐怖感を与えられれば、それでよかったのだ。