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ありがとう、そして……さようなら。
名店「もつ鍋わたり」を忘れない。 

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村瀬秀信

村瀬秀信Hidenobu Murase

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photograph byHidenobu Murase

posted2014/08/04 16:30

ありがとう、そして……さようなら。名店「もつ鍋わたり」を忘れない。<Number Web> photograph by Hidenobu Murase

6月30日で閉店した「もつ鍋わたり」。中野渡さん、9年間ごちそうさまでした。

「いますよ。さっきから、向こうの席に……」

――しかし、わたりさんはどこへ行ってしまったのでしょうか。もつ鍋わたりのFacebookには、この店に毎日通うと書いてありましたが。

「いますよ。さっきから、向こうの席に……」

――え、どこですか? あッ!

 キィ……

 キィ……

 キィ……

――すみません。そこのモニターで木塚敦志引退登板を見ているあなたは、中野渡進さんでしょうか?

「うるせぇな。黙ってろ。新井もだけどよ、この場面で木塚を出すオバナ監督もおかしいだろ……」

――なんで周囲に告げずにいきなり店を閉めてしまったんですか? Facebookをやっているなら告知すればよかったのに。アナログですか。

「うるせぇな。ただでさえ健がいなくなって店を回すのが手一杯の状態で、閉店の告知なんてしたら、客が押し寄せて閉店前に物理的にパンクだろ。常連さんや、お世話になった人たちに報告するだけで手一杯だったんだからな」

――谷繁さんや小宮山さんや野村さんに木塚さん、もつ鍋わたりを「アゲ鍋」と言って愛していた福浦さんたちには報告したんですよね。

「ああ。なかなか言い出せなかったけど、ちゃんと自分の口から報告させてもらったよ。簡単に言えるわけねぇだろ。現場で戦っている最中の人たちに、俺のことなんてどうだっていい話なんだからよ。

 でも、誰一人として反対はされなかった。木塚も賛成してくれたよ。『先輩はすごいや、俺が野球しかやっていない間に2回も新しいことをはじめようとしてる。俺も頑張りますよ』と言ってくれてさ、西武戦でこっちに来るたび店に寄ってくれるんだよ。

 福浦さんも春先にヒサオなんかと何度か来てくれたんだけど、なかなか言い出せなかったんだよな。そしたら4月になって、開店以来はじめて一人で店に来てくれたんだよな。わざわざ千葉から電車に乗ってさ。その時にやっと言えたんだ。福浦さんは『……そうか、じゃあこれからは夕方から会えるな。どこかいい店を探しておいてくれよ』って言ってくれた。意外とみんなすんなり納得してくれたよ。タツだけはいつまでもショック受けていたけどな」

【次ページ】 「俺ははじめて人生の5年先を考えたんだよな」

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