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『レッドブル・エアレース』が復活!
ニッポンのエース・室屋義秀の挑戦。 

text by

田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

PROFILE

photograph bySebastian Marko, Jorg Mitter, Predrag Vuckovic/ Red Bull Content Pool

posted2014/04/11 10:40

『レッドブル・エアレース』が復活!ニッポンのエース・室屋義秀の挑戦。<Number Web> photograph by Sebastian Marko, Jorg Mitter, Predrag Vuckovic/ Red Bull Content Pool

再開されたレッドブル・エアレース。アブダビ大会でタイムアタックを行なう室屋義秀の雄姿。

「ブオーン、キューン、グーン、ブルブルブルブル」

 成田を夜の9時に離陸して、機上の人になること12時間。ペルシャ湾を望む五つ星ホテルで、寝ぼけ眼をこすりながら紅茶をすすっていると、突然、頭上の彼方から飛行機の爆音がこだまし始めた。レッドブルが開催する飛行機レースの世界選手権、『レッドブル・エアレース/アブダビ大会』の公式練習フライトが始まったのである。

 アブダビ大会は、いくつかの点で大きな注目を浴びていた。

 一つ目はレッドブル・エアレース自体が持つ魅力だ。4輪であると2輪であるとを問わず、エンジンを搭載した乗り物を使って行なわれるレースには、人を惹き付けずにはおかないものがある。しかも4輪や2輪と違い、飛行機はより「非日常」を喚起する。レース会場が設置された湾岸沿いの通りでは、平日の午前中にもかかわらず、多くのギャラリーが思い思いに上空をあおぐ光景が見られた。

日本人パイロット、室屋義秀を駆り立てるもの。

 日本人パイロットの室屋義秀も、空の魅力に取り憑かれた一人だ。室屋は「エアロバティックス」や「エアショー」と呼ばれる曲技飛行のスペシャリストだが、2009年からアジア人としては唯一、レッドブル・エアレースに参戦している。彼はパイロットを目指した理由を、次のように語る。

「もともと僕はガンダム世代で、子供の頃はアムロ・レイ(ガンダムのパイロット)に憧れた一人でした。大人になってくると、ガンダムはまだこの世の中にないことがわかってくるわけですが(笑)、飛行機のパイロットなら似ているのではないかと思い始めて。大学の時に見た宮崎駿さんの「紅の豚」という映画にも影響を受けましたね」

 室屋は大学時代、航空部に所属。真剣にパイロットを目指すようになっていく。しかし空に憧れる人間が目指す一般的なルート、旅客機のパイロットを志すつもりは最初からなかった。

「やっぱり自由に大空を飛び回りたい、そういう気持ちが強かったんだと思います。たとえば旅客機などは二次元――離陸した後はほとんど水平に飛んでいきますが、僕が乗っているこの種のプロペラ機は、本当に自分の意のままに、三次元で飛んでいる感覚が味わえる。それこそ『紅の豚』のような感じです」

 事実、室屋が日々の暮らしの中で最も開放感を感じるのは、愛機を駆って離陸した瞬間だという。

「(自分がいるべき場所に)また戻ってきたというか。たしかに飛行機の操縦は難しいし、空に上がっていけば緊張感も当然あります。でもまさに特別な世界であり、自由な世界でもある。身が引き締まりつつも、思い切り自由で特別な気持ちが味わえる、最高に楽しい空間でありますね」

【次ページ】 「義」の文字に刻まれた思い。

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