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“身の丈”ゴルフでマスターズを席巻。
14歳の天才グァン、強さの秘密を探る。 

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桂川洋一

桂川洋一Yoichi Katsuragawa

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photograph byREUTERS/AFLO

posted2013/04/18 12:20

“身の丈”ゴルフでマスターズを席巻。14歳の天才グァン、強さの秘密を探る。<Number Web> photograph by REUTERS/AFLO

マスターズ最終日。オーガスタ・ナショナルのグリーン上を歩きながらパトロンたちに挨拶をするグァン。そのプレースタイルや佇まいまでもが、すべて大人びて見えた14歳だった。

身体が未熟で飛距離が全く出ないグァンだが……。

 ドライバーの飛距離はせいぜい260ヤード程度。グァンにとってはパワー不足が大きなネックだった。ドライバー、3番ウッドを続けて握っても、2オンでさえ難しい距離のパー4もある。熱心にウェートトレーニングに取り組み、アジアアマから半年足らずで5キロの増量に成功したが、世界最高のプロたちの飛距離に太刀打ちできるわけはなかった。

 しかし徹底したフェアウェイキープと、粘り強いショートゲームを4日間継続。2日目にはスロープレーによる1罰打を加えられながらも、出場6人のアマチュアでただ1人予選を通過した。

 '11年の松山英樹以来2年ぶりとなる、アジアからのローアマチュア(出場アマチュア選手最高位)が誕生したのである。

 4日間のパット数はリッキー・ファウラーと並んで最少。また、72ホールで3パットが1度もなかったのは、リー・ウェストウッドとともに2人だけ。グリップエンドをみぞおちに付けた中尺パターは、魔法のステッキのようだった。

 もちろんゴルフでの、単純なパット数における技術の比較は禁物だ。飛距離が無いグァンは、グリーンを他の大人の選手のように簡単に捕えることができないので、グリーン手前のフェアウェイからの打ちやすい距離を残したアプローチショットが増える。ボールをピンそばに落とせるのでロングパットになるケースも減るわけである。

 実際、72ホールでパーオンに成功したのが29ホールと、決勝ラウンドに進んだ選手としては最低の数字なのだ。トップのアダム・スコットが55回(プレーオフは除く)だから、その差は歴然。とはいえ、試合の様子をご覧になった方は、グァンに数々のナイスセーブやクラッチパットがあったことをご存じのはずだ。

ニクラウスとの約束は「自分のやれるゴルフをしよう」。

 大会開幕前、彼はオーガスタで偉大なプレーヤーとの交流を楽しんだ。トム・ワトソン、ベン・クレンショー、そしてウッズらと練習をともにした。中でも一番緊張したのが、数カ月前のマスターズ出場決定に際して祝福の手紙をくれたジャック・二クラウスとの対面だった。

 鮮やかな黄色いシャツの上に、グリーンジャケットをまとった帝王との1時間にも及ぶ会話。ふたりはその対談において何度も「自分のやれるゴルフをしよう」と口にしていた。そしてこの14歳は、初日から臆することなく最終日まで、その身の丈に合ったプレーを続けて快挙を達成した。

 とはいえ、これは「言うに易し」である。

 時に人は、不利な状況で自分を大きく見せようとしたり、突然、大風呂敷をひろげてみたりする。

「できないものは、できない」

 そう割り切ることが難しい。挑む相手が強大であればあるほど、途端に自分が小さく見えてくる。

【次ページ】 「自分を信じてプレーすること」が、いかに難しいか。

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