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大引啓次獲得で日本ハムは強くなる!!
糸井を手放しても得をした理由。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/01/30 10:31
法政大学野球部所属当時は「法政史上最高の主将」「学生野球の鑑」と際立って高い評価を得ていた大引。大阪の人権擁護活動にも毎年積極的に参加しているという社会派でもある。
チームプレーに徹する選手を日本ハムは高く評価する。
のちに大引の実家が神社だったということを知り、小さく納得したものだ。彼の落ち着きは、確かに、それぐらい世俗離れしていた。その老成ぶりは、瑠璃教会の司教を父に持つ、元ヤンキースの松井秀喜ともかぶる。
ただ、大引のように、淡々と野球に一途になれる選手がいたら、監督は楽だろうなと思った。
まさにチームリーダーになるために生まれてきたような選手なのだ。しかもポジションは内野の要のショートで、打撃も守備と同じく派手さはないがそのぶん確実だった。
だから、プロ入りしてからの6年間の成績は、不思議といえば不思議だった。
まったく活躍していないことはないが、通算打率は2割5分4厘で、フル出場したシーズンも一度もない。今ひとつ、力を出し切れていない観があった。
そういう意味では、今回のトレードは、いい転機になるのではないか。
日本ハムは、大引のような人材をもっとも高く評価する球団である。
選手のFA移籍に関しては常に寛容な日本ハムだが、昨年、二塁手の田中賢介がFA権を行使してメジャーに挑戦すると表明したときは、最後の最後まで引き留めたと伝えられている。
日本ハムは、目立たなくても田中のように無言でチームプレーに徹することができるような選手が、実は、チームを強くするのだということをどの球団よりも深く理解している。
つまり、大引は“ポスト田中”でもあるわけだ。
大学時代の安打数は高橋由伸や鳥谷敬をも上回っていた。
大引の課題は打撃だと言われ続けているが、大学時代は、東京六大学野球史上第3位となる通算121安打をマークしたほどの好打者だ。この記録は、慶応大の高橋由伸(巨人)や、早稲田大の岡田彰布(元阪神)や鳥谷敬(阪神)をも上回る。活躍の場さえ与えられれば、打撃もまだまだ伸びるに違いない。
「士は己を知る者の為に死す」という故事もある。
日本ハムは、糸井というスター選手を手放してまで自分を欲しいと言ってくれたのだ。大引も、それを意気に感じないはずがない。