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日米間で異なる野球の「暗黙の掟」。
日本は独自の流儀を貫くべき? 

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中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2010/06/14 11:40

日米間で異なる野球の「暗黙の掟」。日本は独自の流儀を貫くべき?<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

 ワカラナイ。

 いわゆる「アンリトゥン・ルール(unwritten rule)」というやつが、だ。書かれていないルール、つまり「暗黙の掟」などとも言われる。

 6月10日の楽天-中日戦でのことだ。

 6-0と中日の6点リードで迎えた8回表。2死走者なしから、中日の2番・大島がバントヒットで出塁。すると、楽天ベンチから「マナー違反だ!」というニュアンスの大ブーイングが起きた。そして次打者の森野の打席のとき、初球、インハイのボールを投げ込まれたのだ。

 それに対し、落合監督はこう激怒したという。

「何点あったって、ひっくり返されることもある。そんなことを言っていたら、勝てる野球も勝てなくなる。日本とアメリカの野球をごっちゃにしたらイカン!」

 至極もっともではないか。

落合監督の考えは極めて真っ当な日本野球を表している。

 時間制限のない野球という競技は、1イニングしか残っていなくとも、確率は低いとはいえ、その1回で10点を奪われる可能性だってあるのだ。

 そもそも、大量リードしている場合、盗塁を企てるのは失礼だとか、送りバントをするのは失礼だとか、その発想の根っこにあるのは「相手が屈辱的と感じるから」という考え方だ。だが、それはアメリカ的な思考回路だろう。日本人には馴染まない。

 日本で野球を覚えた選手は、高校野球に代表されるように、小さい頃からトーナメント方式の野球がしみついている。だから相手が大量リードを奪っているのに、なおもどん欲に1点を取りにきても「あのチームはスキがない」と感心こそすれ、「そこまでするか!」と憤るようなことはないのではないか。

 むしろ、サムライ的な発想からすると、点差がついたからといって、一転して単純に打つだけの攻撃を繰り返されたら「武士の情を受けるほど屈辱的なことはない」と逆に気分を害しかねない。

メジャーの思考回路が日本に馴染まないこともあるのでは?

 たとえば、こんなケースもある。ある強豪校の監督は、普段はあまり送りバントはしないのだが、点差が開いた途端に送りバントを多用し始める。その言い分はこうだ。

「送りバントをやれば、相手は確実にアウトカウントを増やすことができる。ビッグイニングになりにくい。そうすると、ちょうど10点差ぐらいのコールド勝ちになる。でも、同じ調子で打ち続けていると15点差、20点差になってしまうことがある。そこまでやっちゃうと相手チームの子たちは野球をやるのが嫌になっちゃうと思うんですよね」

 つまり、この監督の場合は、相手チームに屈辱感を与えたくないからこそ、点差がついたらあえて送りバントをしているわけだ。プロ野球ではありえないが、そういう考え方だってある。

 狭量とさえ思えるアメリカ的なアンリトゥン・ルールにそこまでの深慮はあるまい。

【次ページ】 イチローはどんな打席でも手を抜かなかった。

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