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南アW杯を“名物”指揮官で堪能する。
監督が個性的すぎるグループH! 

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西部謙司

西部謙司Kenji Nishibe

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photograph byLatinContent/Getty Images

posted2010/06/04 10:30

南アW杯を“名物”指揮官で堪能する。監督が個性的すぎるグループH!<Number Web> photograph by LatinContent/Getty Images

チリ代表監督のマルセロ・ビエルサ。知的で冷静な監督だが、戦術はどこまでもアグレッシブである

 スペインがダントツの強さで無風区といわれる南アW杯のグループHだが、監督に焦点を合わせてみるとこんなに面白いグループはない。偉大なる選手たちのプレーを堪能するのもいいが、あらためてその監督たちの素顔に焦点を当ててみると、また違ったW杯の楽しみ方がうかがえるので、ここで紹介してみたい。

“変人”監督が率いる超攻撃的布陣のチリ代表!

 まずはチリ代表のマルセロ・ビエルサ。

 この監督は「変人」として知られている。エリート一家のフットボールコーチという出自がすでに変わっているのだが、職業がコーチなだけで仕事ぶりは医者か弁護士みたい。彼はワーカホリックなことで有名で、とにかく緻密、綿密、正確……という評価ばかりが先走る。「変人」と訳してみたがスペイン語では“ロコ”だからこれは頭がおかしいというような意味でもある。フットボール界のマッドサイエンティストといっていいだろう。

 ところが、この監督の戦術はその緻密な性格とは異なり、驚くほど攻撃一辺倒なのだ。

 W杯南米予選18試合では、32点を叩き出している。

 一方で失点も多い。

 簡単にいうと最大限攻撃して、しょうがなく守るというスタイルなのである。

攻めまくるチリ代表と欧州屈指の守備力を誇るスイス。

 布陣は3-4-3システムの信奉者。このシステムでは常時前方に3~4人がいることになる。通常、カウンターアタックのときにはボールより前に1人か2人というのが一般的だが、チリ代表はときに3人も4人もいる。単純に人数をかけているということだ。パスワークが上手いとか、テクニックが凄いから攻撃的というよりも……もうバカ正直に攻撃的、圧倒的に前のめりなのだ。

 当然、カウンターを食らうと脆い。

 守備の人数が足りないから当然だ。

 しかしそこを何とかしのげば、今度は頭数が揃っているチリ代表の逆カウンター炸裂という図式となる。肉を切らせて骨、骨をとられたらさらに取り返す! 現代フットボールにおいては牧歌的とさえいえる姿勢なのである。その何ともおおらかなスタイルをオタク監督が全身全霊をかけて緻密に構築する。確かに変人だ。

 好対照なのがスイス代表のオットマー・ヒッツフェルト監督。

 就任したすべてのチームに何らかのタイトルをもたらしてきた優勝請負人だ(ボルシア・ドルトムント、バイエルン・ミュンヘン)。CLで異なるチームを率いて優勝しているのは名将エルンスト・ハッペル(フェイエノールト、ハンブルガーSV)、ジョゼ・モウリーニョ(ポルト、インテル)とこの人だけ。ドイツ人なのになぜかスイスが大好き。

 自国開催だった'06年のドイツ代表は彼が指揮を執るはずだった。

【次ページ】 ドイツ代表監督を断りスイス代表監督になったその理由。

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