野ボール横丁BACK NUMBER
15奪三振と「サードゴロ」――。
ついに力尽きたドクターK・松井裕樹。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/08/20 18:20
準々決勝で敗れた松井だが、この試合でも15奪三振を記録。今大会での奪三振数は、坂東英二、斎藤佑樹に続く史上3位の68個となった。
3試合で53奪三振という記録よりも、ある意味、奇跡的な「記録」だった。
桐光学園(神奈川)の三塁手・中野速人は、3回戦までの3試合で一度も打球をさばいていなかったのだ。
試合前、桐光学園の2年生エース松井裕樹とバッテリーを組む宇川一光は、こう語っていた。
「中野には(三塁方向に)打たせてくれって言われてるんですけど、サードゴロを打たせるような配球はしていないんで。コースをしっかり投げ分けてると、松井の場合、ショートゴロかセカンドゴロになるんです」
もしくは、バットに触れさせないか、だ。
「自分たちの近距離バッティングを最後までやり通したい」
準々決勝で「ドクターK」こと松井への挑戦権を得たのは、大会屈指の強打を誇る光星学院(青森)。7回まで被安打3、13奪三振の無失点でしのいできた松井がつかまったのは8回表だった。
光星学院は2死一、三塁で、前の試合まで打率5割、本塁打1本と当たっていた3番・田村龍弘を打席に迎える。そこまでの3打席で凡退していた田村は、インサイドの直球にやや差し込まれながらも、ゴロで三遊間を抜いた。
1-0。
ついに均衡が破れた。
試合前に宣言した通り、田村は光星学院の打撃スタイルを貫いた。
「これまで当てるようなバッティングはしたことがない。相手に合わせるのではなく、自分たちの近距離バッティングを最後までやり通したい」
「近距離バッティング」とは、投手に近距離から思い切り投げてもらったボールを極限まで呼び込み、それを軸回転で打ち返すという、これまで光星学院が信じ続けてきたバッティングスタイルだ。それは、相手によって変えなければならないような、やわなものではなく、どんなタイプの投手にも通用する究極の打撃理論だという自負があった。