ロンドン五輪EXPRESSBACK NUMBER
3連覇を逃したのは恥ずべきことか?
北島ら王者の“挑戦の形”を考える。
text by
小川勝Masaru Ogawa
photograph byNaoya Sanuki/JMPA
posted2012/08/11 08:02
レース後、ツイッターに「次のブラジル大会まではあと1261日」と書いた北島康介。帰国後の記者会見では「金メダル以上のものを(北京五輪以後の)3年間でつかんだと思う」とコメントした。
ロンドン五輪に参加した日本選手の中、新しい風を吹かせたのは、ある意味で、4度目の五輪出場となる競泳の北島康介だったように思える。男子競泳では史上初の3連覇に挑んだオリンピックだったが、個人種目でメダルは獲れなかった。100m平泳ぎは5位、200m平泳ぎは4位。大会前、今季世界ランキング1位のタイムを出していただけに、期待は高かったし、少なくともメダルは獲るだろうと考えられていた。それが5位、4位に終わったことで、彼の衰えを論じたり、平井伯昌コーチのもとを離れた選択に疑問を呈する論調も、メディアの中には見られた。
しかし北島は、自分の結果を恥じることもなく、次のように語った。
「3連覇というより、自分自身への挑戦でしたから」
北島は、コメントを拒否して隠れたりしなかった。また自分を卑下したり、「すみません」とか「申し訳ない」といった言葉を口にしたりもしなかった。
2大会連続2冠のキングが、メダルを逃すといった事態になれば、それは恥ずべきことで、過去の栄光に傷をつけることにもなる――そういう常識が、日本の社会には(そう言って言い過ぎなら、少なくとも日本のスポーツ界には)あるように思える。北島は、そのような常識に振り回されることなく、意気消沈することもなく、最後の400mメドレーリレーでは、個人種目の時を上回る素晴らしい泳ぎを見せた。
金メダリストの、その後の挑戦のあり方に一石を投じた北島。
オリンピックの金メダリストの場合、次の大会でメダルを獲れる可能性がないと分かってくると、オリンピックを目指す挑戦そのものを断念する選手もいた。それも一つの考え方で、他人がとやかく言うことではないが、北島の挑戦と、敗れたあとに見せた彼の態度は、金メダリストの、その後の挑戦のあり方に、一石を投じたことは間違いない。
米国のマイケル・フェルプスも今回、同じような立場に立たされていた。北京五輪で史上最多の8冠に輝いた彼は、今回は7種目に絞ってロンドンにやってきた。しかし、3連覇のかかった最初の400m個人メドレーでは、今季ベストに遠く及ばないタイムで、日本の17歳、萩野公介にも敗れて4位に終わった。これは世界中の競泳ファンが驚いた結果だったが、フェルプスもまた、全然めげた様子は見せなかった。ツイッター上で「今夜のレースは、まったく喜ばしくなかった。でも明日はまた新しい日、新しいレースがあるさ」とつぶやいている。