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身長を克服する泳ぎ。
~入江陵介と寺川綾のメダルの価値~ 

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小川勝

小川勝Masaru Ogawa

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photograph byTetsuya Higashikawa/JMPA

posted2012/09/07 06:00

身長を克服する泳ぎ。~入江陵介と寺川綾のメダルの価値~<Number Web> photograph by Tetsuya Higashikawa/JMPA

200m背泳ぎで銀、100m背泳ぎで銅、男子400mメドレーリレーで銀と、ロンドン五輪で3つのメダルを獲得した入江陵介。200mの決勝後には、「最後の男子リレーの自由形の選手がタッチするまで、27人の選手のリレーは終わらないです」と名言を残した。

 ロンドン五輪のあと、メダリストたちの様々な凱旋行事を通して、競泳の選手たちが、これほど多く、一般に名前を知られたことは、かつてなかったように思われる。

 競泳で、日本は戦後最多のメダル11個を獲得した。金メダルはなかったが、個人種目で7人の選手がメダルを獲ったうえに自由形以外の背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ、個人メドレーと幅広く結果を残した点は価値がある。

 北京五輪では北島康介が2冠を獲得したものの、個人でメダルを獲ったのは北島、松田丈志、中村礼子という3人だけだった。金3個を含む8個のメダルを獲ったアテネ五輪でも、個人種目で獲った選手の数は6人だった。ロンドン五輪での7人というのは、世界的に見ても目立った数字だ。10個のメダルを獲得した中国も、個人でメダルを獲った選手は6人だった。

基本的に身長の高い方が有利なのが競泳という競技。

 こうした競泳日本代表チームの成果は、違う視点から見ると、また別の価値を持っている。それは、シンプルではあるが、見逃すわけにいかないファクター、選手の身長に注目すると、見えてくる価値があるのだ。競泳というのは、基本的に身長の高い方が有利な競技なのである。

 例として分かりやすいのは背泳ぎだ。背泳ぎは、プールの壁を蹴って、体を伸ばしてスタートする。壁を蹴る力(および水中でのバサロキックの技術)が同じであれば、背の高い選手ほど、浮き上がった時に先まで行ける。身長の高い選手は、だいたいにおいて腕も長いので、ゴールの時も腕を伸ばして早くタッチできる。身長が10cm違えば、腕を伸ばして届く位置は、10cm以上違ってくる。

 2人の選手がいて、壁を蹴る力も泳ぎの能力も同じであれば、ゴール地点での差は、身長差から来る腕を伸ばして届く位置の差が、そのままタイム差になって表れるはずなのだ。

●競泳・背泳ぎ 日本人メダリストの身長
    選手名 国名 タイム 身長
男子100m M・グレイバーズ 米国 52秒16 2m03
N・トーマン 米国 52秒92 1m85
入江陵介 日本 52秒97 1m78
4 C・ラクール フランス 53秒08 2m00
5 L・タンコック 英国 53秒35 1m83
6 H・メーウ ドイツ 53秒48 1m78
7 H・ストッケル 豪州 53秒55 1m97
8 程飛軼 中国 53秒77 1m79
男子200m T・クレアリー 米国 1分53秒41 1m85
入江陵介 日本 1分53秒78 1m78
R・ロクテ 米国 1分53秒94 1m88
4 R・カベキ ポーランド 1分55秒59 1m85
4 張豊林 中国 1分55秒59 1m87
6 渡辺一樹 日本 1分57秒03 1m77
7 Y・トゥマルキン イスラエル 1分57秒62 1m92
8 M・ラーキン 豪州 1分58秒02 1m87
女子100m M・フランクリン 米国 58秒33 1m85
E・シーボム 豪州 58秒68 1m80
寺川綾 日本 58秒83 1m73
4 A・ズエワ ロシア 59秒00 1m83
5 G・スポフォース 英国 59秒20 1m83
6 趙菁 中国 59秒23 1m76
7 B・ホッキング 豪州 59秒29 1m67
8 傅園慧 中国 1分00秒50 1m77

 世界のトップ選手の争いというのは、多くの場合、ほんのわずかな差で決まる。身長差に起因したわずかな差も、大きな意味を持つ場合が、しばしばあるのだ。

 別表は、日本人選手がメダルを獲得した背泳ぎ3種目の、決勝を泳いだ8人の身長を比較したものだ。これを見ると分かるように、メダルを獲っている選手の中で、入江陵介と寺川綾は、身長が最も低い。

入江の身長がもし1m85だったら、2位のタイムが出ていたはず!?

 男子100m背泳ぎの場合、金メダルのグレイバーズ(米国)は2m03で、1m78の入江より25cmも大きい。腕を伸ばして届く位置は、30cm近く違うはずだ。

 これをタイム差に換算すると、0秒16程度の差に相当する。グレイバーズと3位・入江のタイム差は0秒81だったから、両者の順位が逆転するほどではないが、それでも100mで0秒16というのは、重要な意味を持ち得るタイムだ。

 2位のトーマン(米国)と入江のタイム差は、わずかに0秒05だった。トーマンも1m85で入江より7cm大きい。腕を伸ばした差が10cm程度はあると考えると、これはタイム差に直せば、ちょうど0秒05に相当する。入江の身長が1m85で、同じ泳ぎをしていたら、トーマンと同じタイムが出た計算になる。

【次ページ】 身長差を克服しての実績は、他競技の模範に。

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