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<金メダルへの試行錯誤> 入江陵介 「“優等生”の殻をやぶれ」 

text by

折山淑美

折山淑美Toshimi Oriyama

PROFILE

photograph byTadashi Shirasawa

posted2012/07/20 06:02

Number誌の特別連載「LONDON CALLING~ロンドンが呼んでいる~」。
7月27日の五輪開幕に向け、このシリーズを全文公開していきます!

今回は競泳背泳ぎ日本代表、入江陵介。
その美しいフォームと安定感で、表彰台は確実と言われる22歳は、
世界一の座を目指し、“完璧すぎる”自分をあえて否定する泳ぎを追求した。
Number806号(6月21日発売)では、その試行錯誤の軌跡を辿りました。

「『ヤバイ』というのが、あのレースが終わった後の正直な気持ちでした」

 昨年7月に上海で行なわれた水泳の世界選手権。入江陵介が受けた衝撃は大きかった。

 100m背泳ぎで1位に0秒22差に迫るタイムで銅メダルを獲得していた入江は、自信を持って200mに臨んだ。だが、優勝を狙ったレースでライバルのライアン・ロクテ(アメリカ)に完敗。レース後には、疲労とショックから座り込んでしまうほどだった。

 ロンドンオリンピックで金メダルを目指す入江は勝算を持っていた。

 高速水着が禁止されて以降、ロクテのベストが'10年の1分54秒12だったのに対し、入江は1分54秒08。ロンドンで最大のライバルになる北京五輪王者に対しても、十分に闘えるという自信を持っていたのだ。

 しかし、実際に戦ってみると、ロクテの強さは予想以上だった。

得意の200mでロクテに差をつけられ、大きな敗北感だけが残った。

 入江は前半余裕を持ってロクテについていき、自信を持つラスト50mで勝負するつもりだった。だが、150mを0秒89差でターンした時には見えたロクテの姿は、浮き上がった時には見えなくなっていた。強靱なバサロキックで一気にリードを奪われたのだ。そのままロクテが逃げ切り、1分52秒96で優勝。入江は1分54秒11で2位だった。

「1分53秒台中盤から前半の勝負になると思っていたから、ロクテのタイムは予想外でした。もし自分が53秒を出していても勝てなかったし、タイムも良くなかったので……。50mごとのラップタイムも、全てのラップで負けました。それに今まではターンやバサロで負けていても、泳ぎで勝っているという自信があったけど、後から振り返ってみると、泳ぎ、泳法でも差がなくなっていたんです」

 '11年は自分の中では充実した1年だと思っていた。スピードアップを意識したことで100mでも成果が出て、自分がやってきたことが間違いではなかったとも感じていた。

 だが専門種目と自負する200mの後に残ったのは、大きな敗北感だけだった。

世界は進化しているのに、自分はまだ考えが甘い――。

「100mのビデオは気持ちよく観られたんですけど、200mはなかなか観る気にはなれなかったんです。冷静になって、ジックリと200mのレースを観られたのは、シーズンが終了した9月過ぎでした。そこで、ヤバイ、このままじゃ金メダルは無理だって実感させられたんです」

<次ページへ続く>

【次ページ】 美しいフォームと大崩れしない安定感の“弱点”とは?

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