初采配の試合にあった最大の“非常識”とは？

　ただし、この日の最大の“非常識”に比べれば、「スカウティングをしなかった」とか「コンバートした」といったことは瑣末なことにすぎないだろう。

　川崎が前半に見せた攻撃の中に、「スロー再生でなければわからないような崩し」があったからだ。

　前半33分に中村憲剛のスルーパスが、ゴール前に走り込んだ伊藤宏樹の“足元”にピタリと入って同点弾が生まれたシーンも鮮やかだったが、ここで注目したいのは前半44分の攻撃である。

　まずは稲本潤一が中村憲剛からの落としを、シンプルに右サイドバックの伊藤へ。伊藤は単純にクロスを上げずに、斜め前にいた山瀬功治へパス。それを山瀬がスルーし、楠神順平が柔らかいタッチでボールを受けて反転した瞬間、前線の矢島卓郎、小林悠、田中雄大が一気にアクションを起こした。ちなみに田中雄大は左サイドバックの選手だ。

　楠神はDFの足がそろった瞬間を見逃さずに相手の間にパスを通し、抜け出した小林がフリーでシュートを放った。結局、シュートは広島のGK西川周作によって防がれたが、スロー再生で見ても1度では把握できないような見事な崩しだった。

大敗したチームの選手とは思えない、試合後のコメント。

　試合には敗れたものの、そういう“瞬間”を経験したことが、大きな手応えになっていたのだろう。多くの選手がとても大敗したとは思えないような充実した表情でミックスゾーンに現れた。

　FWの矢島は、力強い関西弁で言った。

「負けて悔しい気持ちはありますけれど、試合の中でチャレンジできたし、目指すサッカーがわかった。前半も何回か攻撃でうまくいったと思う。ボールの取られ方が悪いからやられているだけ。これをやっていけば絶対に自分自身もうまくなっていくという確信がある。チームも強くなって行くと思う」

　MFの中村憲剛も生き生きとした目をしていた。

「今やり始めたことは、これまでとあまりにも違うので難しいところはある。でも、下を向く必要はない。自信を持って、監督が目指すサッカーをやっていきたい」

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