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「まだ本当の良さが出てない……」
栗山監督が斎藤佑樹にこだわる背景。 

text by

中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byHideki Sugiyama

posted2012/03/29 10:30

「まだ本当の良さが出てない……」栗山監督が斎藤佑樹にこだわる背景。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

昨シーズンの成績は、19試合に登板しての6勝6敗で防御率2.69だった。今季の斎藤佑樹に期待されているのは、昨季わずか一度で終わった「完投」だ。

山田GMを魅了した「ふわーっというもの」の正体は?

 日本ハムのGM、山田正雄が斎藤指名を決断した理由もそうだった。山田は、ドラフト本番の三日前、大石達也がシート打撃で投げると聞き、それを見るために早稲田大を訪れた。そこで心変わりしてしまったのだ。

「グラウンドに着いたら、ちょうど、斎藤がブルペンに行くところだった。何となく、それについて行っちゃったんです。そうしたら、そんなに目の前で斎藤を見たことがなかったんですけど、すーっと吸い込まれるようなというかね、何かふわーっというものを感じちゃったんですよ。女の人に惚れるみたいなね。今まで、あんまりそういう経験はなかった。それで、プロのスカウトである以上、こういう選手は絶対に外しちゃいけないんじゃないかと思ったんです。投げる球がどうということではなかった。何ともいえない雰囲気があったんですよ」

 もちろん、山田も、1位候補としてリストアップしていた大石や中央大の澤村拓一の方が、投げるボール自体は上だとわかっていた。だが、そんな山田をも虜にしてしまったのだ。

 斎藤の、この不思議な力――。これを実力と言わずして何と言えばいいのか。

人気商売のプロだからこそ、斎藤の開幕投手は十分アリ。

 表れている力以上のものを期待されることは、これは、もはや斎藤の宿命だ。

 実際、開幕投手が決まる前まで、内心では、それはないだろうと思っていたのだが、決まったら決まったで、わくわくしてきた。高校3年の夏がそうであったように、ひょっとしたらとんでもないことをやってくれるのではないか、と。もし、本命の武田勝になっていたら、申し訳ないが、こういう気持ちにはならなかったと思うのだ。

 プロとは畢竟、人気商売だ。客が入るからこそ、お金になる。そういう意味でも、やはり斎藤の開幕投手は十分アリだと思う。

 プロ野球開幕は、ひとつの祭りだ。ここはひとつ、堅苦しいことは言わずに、斎藤で飾るオープニングゲームを思う存分楽しんでみてはいかがか。いや、「斎藤はないだろう」とぼやいている人たちも、実は、その祭りをすでに楽しみ始めているような気がしてならない。

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