Jリーグ観察記BACK NUMBER
柏レイソル優勝は序章に過ぎない。
ネルシーニョ・マジックとは何か?
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byToshiya Kondo
posted2011/12/08 10:30
優勝の要因を「選手たちが、日々の練習から全力で取り組んで努力をした結果だ」と語ったネルシーニョ監督。自らを「柏というファミリーの父親」と語る監督らしい言葉だ
なぜJ2から昇格したばかりの柏レイソルが、J1を制することができたのか? その理由は、ネルシーニョ監督が口癖のように言うこの一言に集約されているように思う。
「勝つことを、怖がってはいけない」
サッカー選手に限らずどんな分野の人も、成功したいとは願っていても、実績ゼロの状態からいきなりトップにのし上がってやろうとはなかなか考えないだろう。自分の実力を客観的に見て、「身の丈をわきまえる」からだ。だが、それはブラジル人の名将からしたら、「勝つことを怖がっている」という“逃げ”にすぎないのである。
ネルシーニョ監督は選手だけでなくスタッフに対しても、チームの力を信じ、勝利のために徹底的に準備することを求めた。
監督は自らの哲学をこう説明する。
「私は全員に常に前向きに考え、勝つために準備することを求める。チャレンジし続けろということだ。もしかしたら勝てないかもしれないし、成功しないかもしれない。でも、そこに到達するまでの準備を絶対に怠ってはいけない。誰にでも準備を続けることだけはできるんだ」
ネルシーニョ監督が説く「勝つための準備」とは?
では、具体的に準備とは何なのか? ネルシーニョ監督はチーム作りを進めていくうえで、まず各ポジションの選手に「役割」を与える。
たとえば中盤の2列目のMFならば「ゲームを読んで、攻撃にアクセントをつけろ」。FWならば「フィジカルの強さを生かして、どんどんシュートを打て」。そして、すべての選手に共通して求めるのは、ボールがある位置に応じて、ピッチのどこにいるのが最適かを考えることだ。いわゆるポジショニングである。
ときには選手を呼び出し、映像を見ながらマンツーマンで指導することもある。今年日本代表にも選ばれたFWの田中順也はこの“個人授業”によって戦術眼が急激に伸びたひとりだ。
ただし、その指導は「役割」を与えるだけに留まらない。そのやり方がいかにもブラジル人らしいのは、同時に「自由」も与えることだ。