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野口啓代/ボルダリング 
世界一の“岩登りウーマン”は二十歳。 

text by

芦部聡

芦部聡Satoshi Ashibe

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photograph bySatoshi Ashibe

posted2010/03/26 06:00

野口啓代/ボルダリング 世界一の“岩登りウーマン”は二十歳。<Number Web> photograph by Satoshi Ashibe

オランダでのW杯優勝もあって'09年度にはW杯年間王者となった

―――搾りたての牛乳がスパイダーウーマンのスタミナ源―――

 茨城県龍ケ崎市の田園風景を走る。目的地に到着したので案内を終了するとカーナビは宣うが、それらしき家屋は見つからない。電話で目印を尋ねると、「ウチ、牧場をやってるんです。牛舎の向かいが自宅ですから」とのこと。窓を開けると、春を思わせる暖かな風にのって、堆肥のにおいが漂ってきた。

 出迎えてくれた野口啓代(のぐち あきよ)さんは渋谷あたりにいそうな見目麗しい二十歳のお嬢さんだが、斯界でその名を知らぬ者はいない、ボルダリングW杯のチャンピオンだ。ボルダリングとは数メートルの岩場を命綱を付けずに体ひとつで上るフリークライミングだが、壁面にホルダーと呼ばれる人工の突起を取り付けたジムが全国各地にあり、気軽に楽しめるインドアスポーツとして人気を集めつつある。

「小学校5年生のときに家族旅行で訪れたグアムのゲームセンターにボルダリングのウォールがあったんです。試しにやってみたら凄く楽しくて。自宅近くのつくば市にジムがあるのを知って、通いはじめたんです。小さいときから屋根に上ったり、木登りするのが好きだったので、遊びの延長という感覚でしたね」

<朝> ゆで卵、サラダ、ほうれん草のごま和え、ごはん、味噌汁、オレンジ、牛乳。

 遅めの朝食をとりながら、自身の経歴を話してくれたが、食器に目をやると半分近くを残している。動物性タンパク質はゆで卵と牛乳だけ、野菜中心のメニューなのにもかかわらずだ。こんな小食で力が出るのだろうか。

「母がつくる食事は量が多いんですよ(笑)。体重は気にしてますけど、少しの量ですぐにおなかいっぱいになる体質なんです。それにクライミングの前に食べ過ぎると、体が重くなって、動けなくなってしまいますから」

父上お手製の「私のための“虎の穴”」を見学。

 午後は牧場の敷地内にあるプライベートジムでトレーニング。7年前にお父さま自らが工具を握って建てたという「私のための“虎の穴”」は、横3m、縦8mほど。天井は3m弱と高さはないが、角度のある壁面全面に千個以上のホルダーが取り付けてある。岸壁のフジツボを連想していると、「こんなにも充実したプライベートジムを持ってるのは、日本では啓代だけでしょうね。数年前に比べるとボルダリングのジムは増えてきているけど、トップ選手専用のジムはまだありません。水泳の北島康介選手が市民プールで練習しているような状況なんですよね」と、練習パートナーの渡辺数馬さんが教えてくれた。壁面をよく見てみると、ホルダーの下に番号が書かれたテープが貼ってある。これには何の意味が?

「ルートの手順を示しています。ルートによって難易度が異なっていて、柔軟性を要求されるルートとか、パワーが必要なルートとか、課題別に設定してあるんです」

【次ページ】 赤い爪を光らせて天井からぶら下がる女の子。

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