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メキシコW杯の「神の手」から25年、
今なお残る“悪人”マラドーナの爪痕。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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posted2011/07/07 10:30

メキシコW杯の「神の手」から25年、今なお残る“悪人”マラドーナの爪痕。<Number Web> photograph by AFLO

あまりにも有名なメキシコワールドカップでの「神の手ゴール」。ゴールマウスを守っていたのは、今もイングランド代表最多出場記録を持つピーター・シルトン

 アニバーサリーというと、日本人の感覚では記念日を祝うイメージがある。しかし英語では、単純に「事後何年目」という意味で用いられ、記念の対象が喜ばしい出来事とは限らない。イングランドにおいて、今年の6月22日が、忌々しい「神の手ゴール」から25年目のアニバーサリーと呼ばれたように。

 イングランドの国民は、W杯メキシコ大会準々決勝でアルゼンチンに敗れた(1-2)1986年6月22日の無念を忘れていない。0対0で迎えた後半、51分にディエゴ・マラドーナに奪われた先制点は、ハンドの反則で無効にされているべきだった。得点者は「マラドーナの頭と神の手によるゴールだ」と試合後に名言を残したが、映像で確認すればヘディングではなく、頭と同じ高さにあった左手の拳によるゴールであることは明白だった。

 審判がハンドを見逃していなければ、終盤に追い上げたイングランドが準決勝に駒を進め、最終的には、アルゼンチンではなくイングランドが優勝を飾ることさえ可能だった。それが、チーム関係者からファンまで、当時をリアルタイムで経験したイングランド人の通説だ。人々はW杯優勝の夢を奪った「悪者」を、今も許せずにいる。

W杯優勝の夢を奪った「悪者」に「いかさま野郎」の罵声が飛んだ。

 例えば、昨年11月にマラドーナがフルハム対マンチェスターC戦に姿を見せた時のこと。

 観戦の理由はマンCにいる同邦のカルロス・テベスだったはずだが、アルゼンチンの英雄は、フルハムを所有するエジプト人オーナーの招待客としてスタジアムに現れた。キックオフ前には、「世界一有名なフルハム・ファン」との場内アナウンス。他国の会場であれば、スタンディング・オベーションで観衆に迎えられても不思議ではないが、西ロンドンのピッチ上を斜めに横切ってVIP席に向かうマラドーナに送られたのは、“Cheat(いかさま野郎)”コールだった。

 メキシコ大会でイングランドを率いたボビー・ロブソンは、2年前に76歳で他界するまで、マラドーナの先制ゴールを「神の手」ではなく「ならず者の手」によるゴールと表現し続けた。25周年に際し、BBCラジオでは同大会直後のロブソンを描いた30分ドラマが放送された。気分転換にと夫人に誘われたピクニック中も、アルゼンチン戦での出来事が脳裏を離れず、「頭の中で何百回もリピートし続けている。明らかな不正行為だ……」と呟くロブソン。

 故人と同郷で友人関係にあったベテラン俳優が、ロブソンと同じニューカッスル訛りで演じた回想シーンは、聴取者の共感を呼んだことだろう。

【次ページ】 「神の手」への怒りと「五人抜きゴール」の屈辱。

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