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メキシコW杯の「神の手」から25年、
今なお残る“悪人”マラドーナの爪痕。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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posted2011/07/07 10:30

メキシコW杯の「神の手」から25年、今なお残る“悪人”マラドーナの爪痕。<Number Web> photograph by AFLO

あまりにも有名なメキシコワールドカップでの「神の手ゴール」。ゴールマウスを守っていたのは、今もイングランド代表最多出場記録を持つピーター・シルトン

「神の手」への怒りと「五人抜きゴール」の屈辱。

 当時の代表ウィンガーで、現在はテレビ解説者のクリス・ウォドルは、「いまだにあの日の事を思い出す」と、『サン』紙にコメントを寄せた。

「25年が経った今でも、マラドーナを責めたがるファンの気持ちはよく分かる。イングランドにとっては、それほど残酷な事件だったんだ。試合後の控え室は悲痛なムードだった。胸の中には怒りもあった。全てのイングランド人がそうであったようにね」

 心の傷が癒えない国民にとって、事件のインパクトが単なる悪夢に止まらなかったのは、やはり“加害者”がマラドーナだったからだろう。まかり通ってしまったハンドが、ありふれた選手の手によるものだったとしたら、25年前の記憶は憎しみだけに彩られていたに違いない。だが、アルゼンチンが産んだ天才の前に敗れたイングランドは、悪名高き「神の手ゴール」を思い出す度に、W杯史上最高として名高い「五人抜きゴール」も思い出さずにはいられないのだ。最終的に勝敗を分けたのは、マラドーナの手ではなく、その華麗な足技による54分の2点目だった。

 前述のウォドルも、投入される10分前にピッチサイドから目撃したゴールについて、こう付け加えている。

「天才ならではのゴールだった。サッカー選手として拍手を送りたい気分だったが、イングランド代表としてはあり得ないことだった」

ユニフォーム交換したホッジは「素晴らしい選手」と称賛するが……。

 先発メンバーの中には、マラドーナとユニフォームを交換した選手までいる。当時のMFで、現在は地元のノッティンガム・フォレスト(2部)でユースを指導するスティーブ・ホッジだ。

 ホッジは、先制点を呼んだループ気味のバックパスを放った張本人でもある。CBだったテリー・ブッチャー(現スコットランド1部インバーネス監督)のように、「(マラドーナの)ユニフォームなど見たくもないし、洗車用のボロ切れとして使う気にすらなれない」と憤慨しても不思議ではないはずだが、アニバーサリーでマイクを向けられたホッジは言っている。

「彼の行為は正当化できないが、素晴らしい選手だと思ったからユニフォームを交換したまでさ。W杯のアルゼンチン戦は、キャリアのハイライトになるとも思ったから」

【次ページ】 マラドーナのユニフォームを見て何を思う……。

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