チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER

ダークホース以上。 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byDenis Doyle/Getty Images

posted2006/10/17 00:00

ダークホース以上。<Number Web> photograph by Denis Doyle/Getty Images

 たぶん、今季のバレンシアはやるだろう。相当に。事が順調に運んだ場合、最大、準優勝は望める気がしてならない。このチームに、僕はそれほど魅力を感じている。2年連続で準優勝に輝いた'99〜'00シーズン、'00〜'01シーズンに似たムードを、あるいは内容的にはそれ以上の気配を感じる。欧州戦線を勝ち抜いて行く姿が、想像できて仕方がないのだ。

 シーズン開始間もないこの時期に、そんなことを言い出す人は誰もいないはずで、つまり、目立ちたがり屋の精神を敢えて発揮させてもらった感なきにしもあらずだが、バレンシアに対して、僕が前評判との間に最もギャップを感じていることだけは確かだ。たとえば、3大ブックメーカーの一つであるウイリアム・ヒルは、バレンシアを10番手に推している。他社の扱いも似たり寄ったりだ。思いのほか人気薄。だからこそ狙い目。だからこそ、この段階で一言いっておきたいのである。バレンシアは相当にやるだろうと。

 リバプールから移籍したモリエンテスに、簡単に出場の機会が与えられていないところに、まず、その魅力の一端を垣間見ることができる。人材は豊富だ。それに従い、布陣を臨機応変に変えることもできる。1トップもあれば、2トップもある。言い換えれば、4−2−3−1もあれば、4−4−2もある。モリエンテスは、2トップの布陣にならないと出場の機会は与えられない。というのも、ダビド・ビジャが攻撃の柱として、頼りになるプレイを披露しているからだ。

 ダビド・ビジャ。この成長著しい選手とバレンシアの存在感は重なって映る。彼をどう評価するか。それがそのままバレンシアの評価に繋がるといっても言い過ぎではない。175センチ、69キロ。見た目はもう少し小さく見える。とにかく俊敏だ。技術も高いし、パンチ力、勝負強さやガッツ、逞しさもある。日本人にわかりやすくいえば播戸似といったら、ビジャに怒られるだろうか。

 その脇を固めるサイドアタッカーが、また洒落ている。実力者のビセンテとレアル・ベティスから移籍したホアキンだ。まだホアキンは、チームに馴染めていないせいか、控えめなプレイに終始しているが、本来の力が発揮されれば大変だ。この手の右ウインガーは、相変わらず欧州では希少価値。バレンシアに欠けていた華も兼ね備える。

 そしてトップ下には、シルバが、スタメンに最も近い位置にいる。セルタ・デ・ビーゴからやってきた弱冠20歳。この左利きMFの存在も、モリエンテスをサブに追いやる原因だ。彼が出場すれば、布陣は1トップ。4−2−3−1になる。

 2トップよりパスは回る。見た目に華やかになる。かつてチャンピオンズリーグで2シーズン連続準優勝を飾ったクーペル時代のバレンシアは、4−4−2の布陣から、勝負球を早めに入れる、鋭いカウンターを身上としていた。効率的ではあったが、色気に欠けたことは事実。それに比べると、今シーズンのバレンシアには柔らかみがある。さしずめシルバは、そんなカラーを代表する選手といえる。170センチ、67キロ。サラゴサに放出されたアイマールに似ているのは、風貌だけではない。巧いし、技にキレがある。2歳年上のイニエスタ(バルサ)もそうだが、巧いだけではないところがミソ。多彩なのだ。活動量も多ければ、得点能力もある。プレイの遂行能力が高いのだ。

 アルベルダとエドゥーの守備的MFも魅力的だ。キープ力のあるパッサーと、ボール奪取の巧みな必殺仕事人。コンビが振るっているのだ。サブには、若手の成長株ガビランもいれば、ポルトガル代表のビアーナもいる。さらに付け加えれば、前線のサブにもアングーロという決定力の高い選手がいる。

 で、サイドバックだ。このポジションが充実していることも、バレンシアをプッシュしたくなる大きな原因なのである。右は先のW杯でも大活躍したポルトガル代表のミゲル。現在、イタリア人のモレッティが務めている左には、間もなく怪我でW杯を棒に振った前チェルシー、元ビルバオのスタイリッシュな左利き、デル・オルノが復帰する。サイドバックに優秀な人材を抱えているチームこそが、現代サッカーにおける好チームの不可欠な条件といわれるが、バレンシアはこれと見事に合致する。サイドバックは、欧州で1、2を争うクオリティの高さだ。

 そしてセンターバックには、経験豊富なアジャラと、シルバ、ガビランと並ぶスペインの有望株、アルビオルが締める。GKにもカニサレスがいる。この陣容を眺めていると、思わず、文句あるか!と叫びたくなる。

 監督はキケ・サンチェス・フローレス。出身はバレンシアで、元レアル・マドリー&スペイン代表のサイドバックだ。かつて僕は、レアル・マドリーが、銀河系軍団化を促進させる最中に、彼をバレンシア郊外の自宅に訪ねたことがある。そのやり方に対して、疑問を抱きませんかというこちらの質問に対し、問題点をキチッとわかりやすく解説してくれた記憶がある。攻守が連動していなければ良いサッカーはできないと。レアル・マドリーOBが、批判を封印する中での言葉だったので、重みもあったし、彼がどこかのチームで采配を振るったときには、好チームができあがるのではないかと期待を抱かせてもくれた。

 その彼が、いま僕の最もお気に入りチームの監督として、チャンピオンズリーグで采配を振るおうとは。因果を感じずにはいられない。とはいえ、チャンピオンズリーグはこれが初体験。唯一の気がかりはそこになる。大丈夫だとは思うけれど……。

 バルサも良いけれど、レアル・マドリーも良いけれど、今季はスペインリーグそのものが、いつになく面白いのだ。バレンシアだけではない。アトレティコ・デ・マドリーも、セビーリャも、チャンピオンズリーグに出場すれば、十分ベスト8以上が望める力を持っている。柔軟性もあれば、堅さもある。戦術と個人技が高次元で合体し、強くて巧いチームに仕上がっている。いろいろな意味においてバランスが良いのだ。彼らの存在を普段気に掛けることが少ない他国のクラブチームは、とりわけ戦いにくいに違いない。イタリア勢にはその堅さが、イングランド勢には巧さが、嫌らしく感じられるはず。バレンシアにチャンスありと思う所以だ。その存在は、いま欧州大陸にあって、とても眩しく映るのである。

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